Autographic:あとがき
「犬をいじめると狼が来るぞ!」
子供の頃、犬に追いかけられて石を投げつけながら家に帰ると、小鹿野町出身の祖母に決まって「狼が来るぞ」と怒られた。
昔は犬が放し飼いにされていて、野良犬か飼い犬かの区別は知って ...
Autographic 第三十話:自然
翌朝、目を覚まして朝食を食べ終え、父さんと和幸を見送り小鹿野のおじさんの家に行くため着替えを用意しはじめたものの、今度は何日泊まっていいのか分からない。一階に降りて洗濯している母さんに聞くと、検査で帰ってこなければならないため、一週 ...
Autographic 第二十三話:絶滅
お守りをジーンズのポケットにネジ込み、神楽殿の横を通って参道を進む。参道は、両脇に生い茂る多くの木から漏れる光が、所々木漏れ日を作っている。痛い脚を引きずりながら、ニホンオオカミの毛皮を見るため僕は急ぎ足で歩く。
緩や ...
Autographic 第二十二話:神域
小学校三年生のとき、秋の旅行で来た三峯神社。犬たちを店の横にある木に繋ぎ、おじさんの後を歩いてお土産に木刀を買った鳥居前の土産物屋に入っていくと、あの時ここで、友達みんなで味噌おでんを食ったことを思い出してしまう。
そ ...
Autographic 第二十一話:眷属
僕は新井さんの姿が見えなくなるまで手を振り続けたが、車がカーブを曲がったところで大きく深呼吸して山の空気を吸い込んだ。
窓を閉めて午後の日差しが降り注ぐ空を見ていると、隣からおじさんの声が聞こえてくる。
「 ...
Autographic 第十九話:迷い
体と足首の痛みを堪えながら、犬たちを追いかけて車を停めた場所を目指して山を降る。
思えば今日は散々な一日だった。慣れない山歩きだけでも疲れるのに、崖から落ちて熊に出会ったりすればヘトヘトになって当然だ。
...
Autographic 第九話:期待
おじさんの家の裏手にある坂を下り、三分くらい歩いたところに赤平川は流れている。初夏の日差しを浴び、緑が濃くなっていく鬱蒼とした森を抜けると、薄暗い視界が急に開け明るく太陽が輝く川へ出た。
ゴールデンウィークも終わった五 ...
Autographic 第八話:川へ
母さんとおじさんが蕎麦を食べ終えると、お茶を飲みながらしばらく三人で雑談して店を出た。おじさんの子供の頃からの友達である蕎麦屋の主人が、女将さんと外まで出て笑顔で僕らを見送ってくれる。僕も主人と女将さんに挨拶して車に乗りこんだ。
Autographic 第七話:興奮
庭の隅にある、鉄でできた檻の中が二頭の犬の住処だ。僕が近づく気配を感じたらしく、ゴローとハナがワンワン吠えている。
庭にある植木の陰に隠れそっと顔を出すと、ゴローとハナは鉄格子に前足をかけ、二本足で立ちあがって尻尾を振 ...