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第4回ツギクル小説大賞で、当サイトの作品、夢幻の旅が奨励賞を受賞しました。
管理人:Inazuma Ramone

Autographic 第二十一話:眷属

創作長編小説

 僕は新井さんの姿が見えなくなるまで手を振り続けたが、車がカーブを曲がったところで大きく深呼吸して山の空気を吸い込んだ。

 窓を閉めて午後の日差しが降り注ぐ空を見ていると、隣からおじさんの声が聞こえてくる。

「秀人、昼飯も食ってねえし、ちょうどいい機会だから、この上の三峯神社に寄って蕎麦でも食っていくんべえ」

「ほんと!? ニホンオオカミの毛皮も見ていい?」

「見たかったんだから見ればいいさ。その間、俺は駐車場で働いてる友達と話してるから」

 このまま帰るのかと思ってたけど、嬉しい話が舞い込んできた。見たかったニホンオオカミの毛皮がとうとう見られる!

 期待と興奮で目の前に広がる緑の秩父連山が一層大きく見える。おじさんが運転する車はくねくねした山道を快調に進み、ダムのところの信号を左折せずまっすぐ進んだ。

 道は細く険しい上り坂で、途中にある小さなトンネルなど車が擦れ違える広さではない。おじさんの車がトンネルに差し掛かったときも、前からきた車が停車しておじさんの車が通り過ぎるのを待っていた。

 トンネルを過ぎると坂道の傾斜はさらにきつくなり、アクセルを踏み込むためエンジンの音が大きくなる。道幅も、場所によっては降ってくる対向車に待ってもらい、登っていくような細さ。道路の右側は崖になっているため、降りてくる車はガードレールに当たりそうなほど寄せて走らなければならない。

 ここ数年、三峯神社は関東最大のパワースポットとして人気になっていた。フィギュアスケートの浅田真央選手が、三峯神社が毎月一日限定で領布している白い氣守りを持っていることでも有名になり、月末から一日にかけ、白い氣守りを求める人で道路が渋滞してしまい問題化している。神社自体も僕が小さい頃と違い、もはや観光地のようになっているらしい。

 僕の友達も、東京に住む親戚から白い氣守りを買ってきてほしいと頼まれたと言っていたが、「大渋滞のバスに何時間も乗って三峯神社まで行くなんて冗談じゃない」と怒ってたのを思い出す。

 やがて車は山の上の方まで登っていき、道路が二車線になると緑に覆われた山の峰々が広がり、窮屈に感じた空間は開放的な空間に変わった。

「もうすぐ着くぞ」

 おじさんの言葉に、僕はとうとうニホンオオカミの毛皮が見られると気が逸ってくる。空の青色と森の緑色が交差する彼方を見ながら気持ちを落ち着かせていると、道路の左に広い駐車場が見えてきた。

「よお修ちゃん。珍しいじゃねえか。まさか神頼みにきたんじゃなかんべ?」

「甥っ子の病気が治るように拝みにきたんだがな。ついでに狼の毛皮が見てえって言うから甥っ子も連れてきたい」

「そうかい。今日は平日で観光客も少ねえから博物館も空いてんだんべえ」

 おじさんは係員の人と楽しそうに喋りながら駐車場入り口で代金を払い、階段近くの駐車スペースに車を停めて車を降りた。

「よっちゃんちの姉ちゃん所でメシ食ってくらあ! 甥っ子を博物館に行かせたら犬連れておめえんとこ行くよ!」

 おじさんは後ろを振り向いて大声で係員の人に言いながら、荷室のドアを開けて犬たちを出す。

 動き回る犬たちの首輪にリードを付け、ロボのリードを僕に渡すと、ゴローとハナを連れて階段を昇りはじめた。僕もロボを連れ、おじさんの後を追いかけて階段を昇っていく。足首が痛いけど我慢しなきゃ。この先に、見たかったニホンオオカミの毛皮があるんだ。

 階段を登って千と千尋の神隠しに出てきそうな土産物屋の前を通り、小学校の旅行で木刀を買ったもうひとつの土産物屋の前までくると、右側に三峯神社の鳥居が見える。日本でも珍しい三つ鳥居の両脇にある狛犬は、この神社に祀られている神の眷属である狼が鎮座していた。

「秀人、蕎麦食って病気が治るように参拝していくんべえ」

「うん!」

 鳥居の前の土産物屋に入っていくおじさんの後に付き、僕も思い出がある土産物屋に入っていった。

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