Autographic 第二十二話:神域

創作長編小説

 小学校三年生のとき、秋の旅行で来た三峯神社。犬たちを店の横にある木に繋ぎ、おじさんの後を歩いてお土産に木刀を買った鳥居前の土産物屋に入っていくと、あの時ここで、友達みんなで味噌おでんを食ったことを思い出してしまう。

 そんな思い出のある店に入っていくと、店内にいたおばさんが大きな声を出した。

「てぇ~修ちゃん、久しぶりだがね!」

「よお、みっちゃん久しぶり。今日はよっちゃんと鹿猟をしてきたい」

 声をかけてきたおばさんは、おじさんと仲良さそうに話している。おじさんが僕に席に座るように言うと、おばさんが水を持ってきてくれた。

「この子は誰だい?」

「こいつは和美の長男だよ。秀人、よっちゃんの姉ちゃんの美津子ちゃんだ」

「こんにちは、大舘秀人です」

 ペコリと頭を下げると、おばさんは目を丸くして甲高い声で喋りはじめた。

「似てるよ和美ちゃんに! やっぱり美人からは美男子が生まれるんだねぇ」

 まじまじと僕を見るおばさんに気圧され、僕はたじろぎ、水を飲みながらメニューを見る。

「今日は秀人が狼の毛皮を見てえって言うから連れてきたんだがね。俺も久しぶりに参拝してくらぁ。みっちゃん、山菜そばひとつ。秀人は何にするんだ?」

 味噌おでん、カレー、そばとうどんは山菜、月見、天麩羅。腹が減っているのでカレーだけだと物足りない。そばかうどんを付けるか、それともカレーと味噌おでんにするか……。

「カレーと天麩羅そばください」

 少し迷ったものの、結局カレーと天麩羅そばにした。窓際の席に座ってる中年夫婦が美味しそうに食べるのが見えたので、男性が食べているカレーと女性が食べている天麩羅そばを両方頼んだのだ。

 それにしても、こんなに腹が減るのも久しぶりだ。何日か前までは病院で食事を残すこともあったし、そもそも腹が減る感覚が無かった。これも山の中を歩き回り、体力を消耗したためなんだろうと思う。

 運ばれてきたカレーと天麩羅そばを、おじさんと美津子さんの話を聞きながら食べ始める。どうやら美津子さんは新井義男さんの一歳上の姉さんで、三人とも同じ高校に通っていたようだ。

 カレーとそばを食い終わって手持ち無沙汰にしていると、おじさんが店のおばさんと話し終わったようで、立ち上がって会計を済ませている。

「みっちゃん、またそのうち来らぁ」

「あいよ。これ持っていって食べな」

 美津子さんが店先に置いてある煎餅を取って僕に手渡してくれると、若い神主と小柄な巫女さんが店の前を歩いて鳥居をくぐっていく。やっと神社に来た感じがして二人を見ていると、横から美津子さんが話しかけてきた。

「あの二人、秋に結婚するんだってさ。ここで結婚式を挙げるっていうから、打ち合わせにでも行ってたのかねぇ」

「へぇ~」

 煎餅を手にしたまま、参道の両側に生い茂る緑の中に消えていく二人の後ろ姿を目で追うのを止め、僕はおじさんと一緒に土産物屋を後にした。

 鳥居の前で軽く会釈し、参道を歩いて神社に入っていくと、左側に山門のような建物が見えてくる。

 数えきれない本数の大木に日差しが遮られ肌寒さすら感じる参道の両脇には、所々ニホンオオカミの狛犬が鎮座しており、睨まれている感じすら漂う。

 山の中の長い参道を歩いていくと、目の前に石段と両脇の注連縄が付けられた御神木が現れ、その上に豪華絢爛な拝殿がそびえ立っていた。

 石段を登り、手水舎で手と口を清めてから拝殿の前で賽銭を入れて本坪鈴を鳴らし、二礼二拍。両手を合わせたまま、三峯神社の主祭神である日本を創造した二柱、伊弉諾尊と伊弉冉尊に白血病治癒を願う。一礼して横を見ると、おじさんも何事かブツブツ唱えながら両手を合わせていた。

 参拝が済むと、おじさんがお守りを買ってくれるというので、横にある社務所に行き紺色のお守りを買ってもらった。狼が遠吠えをしてる刺繍が入っており、微妙にカッコいい。

「秀人、狼の毛皮を見てこい。俺は駐車場の料金所で話をしてる」

「うん!」

 僕はおじさんより先に石段を降り、鳥居の横にある三峯博物館目指して歩いていった。

にほんブログ村

この記事のSNSでの反響

創作長編小説