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第4回ツギクル小説大賞で、当サイトの作品、夢幻の旅が奨励賞を受賞しました。
管理人:Inazuma Ramone

Autographic 第十九話:迷い

創作長編小説

 体と足首の痛みを堪えながら、犬たちを追いかけて車を停めた場所を目指して山を降る。

 思えば今日は散々な一日だった。慣れない山歩きだけでも疲れるのに、崖から落ちて熊に出会ったりすればヘトヘトになって当然だ。

 先を行くロボを見ると、山に帰る様子も見せずに猟犬たちと歩いている。後ろを見ると、おじさんと新井さんが今日の猟のことなどを楽しそうに話しているのが聞こえてくる。

「修ちゃん、鹿の脚、俺んちで犬に食わせてくかい?」

「いや、秀人も怪我してるし、うちに帰らぁ」

「じゃあ、うちに赤い首輪が余ってるから持ってって野犬に付けてやれよ」

 どうやら新井さんちに寄らずに帰るらしい。しかも新井さんは、ロボに付ける首輪もくれるという。

 二人の話を聞きながら、僕は野犬にロボという名前を付けたことを二人に話してないのに気づいた。

「そうだ! おじさん、野犬の名前を決めたんだよ」

 僕は後ろを振り返り、おじさんと新井さんにロボの名前のことを話した。

「野犬の名前か。なんて名前にしたんだ?」

「ロボって名前に決めたんだ」

「ロボかぁ。狼王の名前だな」

 横から新井さんが口を挟む。僕は鹿の前脚が入ったビニール袋を両手で上に挙げながら、おじさんと新井さんを交互に見て微笑んだ。

「うん、毛並みがボロボロだから、ボロボロボロ……って言ってて思いついたんだよね。狼王ロボはこじつけかな」

「まあ野犬で狼みてえな見た目だし、ロボで丁度いいだんべえ」

 おじさんの言葉に、新井さんと僕は顔を見合わせて笑った。やっぱり、みんなロボを狼みたいだと思ってたんだ。

 三人で笑いながら話し、犬たちを追いかけ山を降っていき車を停めた場所にたどり着くと、車に荷物を積み込む。新井さんが荷室のドアを開けて口笛を吹くと、猟犬たちが走ってきて乗り込んだ。

 ロボも後から付いてきて荷室に乗り込んだが、まだ僕はロボを置いていこうか迷っている。新井さんが荷室のドアを閉めて車に乗り込んだが、僕はなかなか車に乗ることができなかった。

 樹木が生い茂る空間で、ロボを連れて帰りたい自分と置いていく方がいいと考える自分の葛藤。

 西に傾きはじめた太陽の光が木々の間から漏れ、僕の体の一部を照らしている。そして、その光は車内のロボも照らしていた。

 陽光に照らされたロボは耳を前に傾けて僕を見ている。名前まで付けた野犬の目は、僕に「早く帰ろう」と語りかけている気がしたのだ。

「秀人、帰るぞ」

 おじさんの声で我に返った僕は慌てて車の後部座席に乗り、おじさんと新井さんにロボを置いていくか連れて帰るか相談するタイミングを逸し、車は発進した。車の中で後ろを振り返ると、狭い車内でロボは猟犬と重なるようにして一緒に寝ている。

 森を出て細い林道に出た車は初夏の日差しを浴びながら走り、車内の温度をぐんぐん上げていった。

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