第二話 Big Women 其の10
彼女は物心ついた頃に母親とともに風呂屋へ売られ、風呂屋で生きていくため、幼いころから男を喜ばせる性技を身に付けざるを得なかったのだ。よく見れば顔は整っており美人といって差し支えない。スラリとした身体は出るところは出ており腰はキュッとくびれている。
ベラマッチャは手にしていた林檎を一口かじり、父親についてローズに尋ねた。
「お父上が所属していた団体は分かるのかね? キミが『アレながおじさん』とやらを探しているなら手掛かりになるかもしれん」
「ふん! アタイはスモウ・レスラーの手なんか借りる気はないんだ。その毒林檎を食べて早くあっちへ行っちまいな」
だが、ローズはベラマッチャの問いかけに横を向いて答えようとしない。直後、店の従業員が指名客が入ったとシャブリン・ローズを呼びにきて、ローズはベラマッチャの顔も見ずに立ち上がった。
「スモウ・レスラーにしてはまともそうだから教えてやるよ。毎朝、スモウあがりの連中が体力づくりのためにこの中庭で稽古をしてる。客の腹の上で死にたくなければ、あんたも稽古に参加して体力を付けな。それから、生きていたければなにかひとつ、誰でもイかせられる性技を身に付けることさ。せいぜい頑張るんだね」
ローズが屋内に消えるとベラマッチャはベンチに腰掛け、林檎を食べ始めた。シャブリン・ローズが、なぜこの林檎のことを毒林檎と言ったのか分からないが、口にした瞬間に苦みを感じるものの林檎は素晴らしく美味く、すぐにベラマッチャは食べ終えてしまった。
体の火照りも冷めたベラマッチャは腰を上げ、中庭の隅に置いてあるゴミ箱に林檎の芯を捨てると、建物の扉を開けて控室へと向かって歩いた。なぜローズの父、マウケーノスは妻子を風呂屋へ売らなければならなかったのだろう? 『アレながおじさん』なる謎の人物は、なぜ毎月ローズに仕送りをしていたのか?
ベラマッチャは控室に入り、タイガー・ジェット・チンとキラー・トーア・オマタに尋ねてみようかと思ったが、この一件には裏がありそうである。ベラマッチャはローズの話を心の中に留め、平静を装うことにした。
部屋の前までくると、中から慌ただしい音が聞こえてくる。扉を開けるとチンは箱からサーベルを取り出しており、オマタはナイフで己の額を薄く切っている。
「セニョール・チンにセニョール・オマタ、まるで土俵に上がるような慌ただしさだが、いったい何事かね?」
部屋に戻ってきたベラマッチャを見て、チンとオマタは各々声をかけてきた。
「団体客がヒールを複数人希望してる。アブドーラ・ザ・ベラマッチャー、お前も早く準備しろ。怖い顔を作るんだ!」
「いっぺんに七人も相手にしなきゃいけねえんだ。一年に一回あるかないかの大仕事だぜ」
二人の言葉にハッとしたベラマッチャは鏡を見ながら顔を作り、マワシを締め直して己に気合を入れた。
ディスカッション
コメント一覧
初めまして。ゆきのです。
訪問、コメントを頂きありがとうございます。
フォロワーの方もたくさん、作品も多数あり素敵なブログですね^^
コメント欄を探しウロウロしてしまいました…。(^_^;)
また寄らせていただきます。
(Y*’▽’)UKINO
コメントありがとうございますm(__)m
小説から創作詩まで書いてます(^-^)/
よろしければお読みくださいm(__)m