Heaven Sent:第二十三話

創作長編小説

 課長の配慮で二月から店舗で勤務することになったが、やっぱり体を動かして働いてると嫌なことを思い出す機会が少ない。本部でデスクワークをしてるより精神的に楽だし、なにより自分で売り場を作るのが楽しいし商品が売れると励みになる。最初は本部から来た社員だと警戒されていたが、半年ほど働くうちに他の従業員とも打ち解け、一緒に遊びに行ったり飲みに行ったりする奴もできた。

 店舗業務が楽しくて、もう本部には戻りたくないと思っていた八月初旬、店長に事務所へ呼ばれ、14時に人事課長が来るから時間を取れと伝えられる。

 ――人事課長? やっと店舗にも馴れたのに異動かな……?

 正直、今は異動したくない。嫌なことを思い出す回数も減ってきてるし店舗の社員やアルバイトとも仲良くなった。人事課長の話なら異動の話しなんだろうが、本部のスーパーバイザーに戻れと言われたら断ろう。

 昼休憩を終えて商品を出していると、人事課長が現れた。

「里見君、ちょっといいか?」

 課長と一緒にバックヤードへ行き事務所の椅子に腰かけると、課長から予想通りのことを伝えられた。

「十月オープンの新店がある。君が本部でスーパーバイザーとして携わっていた部門を前面に打ち出す店だ。そこの開店スタッフとして君に行ってもらう。これは店舗運営部長と新店舗店長の希望だ」

 新店舗か……去年の秋に俺が担当部門の棚割りを考えた店だけど、まさか自分が行くことになるとは思わなかった。でも、本部へ戻るよりマシだ。

「分かりました。新店はいつから勤務ですか?」

「九月一日から行ってもらう。もうひと月ないが、君の後任は来週からくる。しっかり引継ぎをしてくれ」

 課長は立ち上がって俺の肩を叩き、店長と少し話してから店を出ていった。当たり前だが店長は俺の異動を先月から知っており、送別会を開いて送り出してやるから、と嬉しい言葉をかけてくれた。

 後任担当者との引継ぎと送別会も終わって九月一日に新店舗に出勤すると、店長から申し渡された最初の仕事は宣伝カーに乗ること。店舗の半径四キロ地域を宣伝して回る仕事である。まだ俺の担当部門の商品が届いてないので仕方ないといえばそれまでだが、新しい店舗での仕事に張り切っていたので少々拍子抜けしてしまった。

 女性の声で録音された「新しいお店がでっか~くオープ~ン!」という内容のカセットテープを再生しながら低速で住宅街を走るものの、子供に指をさされて追いかけられたり若い主婦の集団にクスクス笑われたりしてかなり恥ずかしい。途中で嫌になり、空き地を見つけて二時間ほど昼寝をし、十二時過ぎに店に戻った。

 開店準備作業中なので弁当が出るはずだが、まだ誰も休憩に入ってない。店長を探して一回りしてきたことを報告すると、昼飯の後も宣伝カーで回ってこいとのことである。弁当は他店舗に荷物を取りに行ってる女子社員二人が帰りがけに買ってくるらしい。

 また子供に追いかけられるのかとウンザリして店舗北側にある窓ガラスの外を見ていると、その横の自動ドアの前に車が停まるのが見えたと同時に、突然、周りが太陽のような強烈な光に包まれ人も物も光の中に埋もれていく。呆気にとられて自動ドアを見ていると、光の中から大きな袋を両手に下げた女が現れた。

『そんなにいい子犬はもう手に入らないから仲良くしなさい』

 体ごと押し潰されるような圧倒的な音圧で響く声。心霊写真を撮りに行ったあの日の夜から何度も夢に見た光と声が、まるで白昼夢を見るかのように真昼に出現したのだ。

「みなさ~ん! お弁当買ってきました~!」

 光の中から現れた女は、呆然と立ち尽くす俺に微笑んでから元気な声で弁当を買ってきたことを伝え回っている。

 彼女の名を、篠塚由樹といった。

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