Heaven Sent:第十八話

創作長編小説

 実家からアパートへ戻る途中でコンビニに立ち寄り、夕食の弁当とビールを二本買った。荷物を片付けるのに手間がかかりそうなので、途中で作業を中止したくなかったのと、短期間とはいえ、理恵子と二人で暮らした住まいになるべく長くいようと思ったからだ。結婚当初は、嫌な思い出だけでなく良い思い出もある。二人してリビングから離れず、ずっと抱き合って映画を見たり音楽を聴いたりしてたし、そのまま愛し合うこともあった。

 Give it to me !

 あの頃俺たちは、見つめ合い、確かにお互いを求めていたのに、いつの間にか口論が絶えなくなり、一緒にいるのが耐えられない存在になってしまった。夫婦といっても所詮は他人同士、どこかでボタンを掛け違えると二人の間に溝ができ、お互いが歩み寄ろうとしない限り溝が埋まることはない。よく週刊誌で芸能人の離婚についての記事が出るが、性格の不一致は性の不一致だの、借金生活に嫌気が差して離婚しただの書かれているのは違うんじゃないかと思う。俺と理恵子は、口論するようになり寝室を別にしてからも、なぜかセックスだけはしていたし、体の相性がいいのはお互い認めるところだった。

 きっと離婚するときは、育った家庭からくる常識や生活習慣の溝が埋められないから離婚するんじゃないだろうか。たとえ好きで結婚しても一緒に生活するようになると、それまで目につかなかった相手の嫌なところや細かい部分が目につくようになる。そこに周辺の人たちの生活や世間の常識などの判断基準が加わり、自己の視野の広がるに従い、相手の嫌なところが許容できなくなってくる。話し合いができるなら相手との溝も埋まるが、聞く耳を持たなければ溝は広がっていくばかりだろう。

 人は世間の風に晒され、様々な経験をすることで精神的に成長するものだが、芸能人同士の結婚のように、若いときから芸能界のような隔絶された世界にいた人は一般社会とギャップを知らず、子供を通じて世間との交流を始めた妻の亭主を見る目が変わって溝ができてしまい、溝ができたことすら気づかない亭主に愛想をつかして離婚、というパターンが多いように思える。

 そんな悟ったかのようなことを思いながら自分の荷物を整理していると、大切な物がなくなっているいることに気づいた。

 ――預金通帳がない!

 クローゼットの中に置いてある収納ケースの引き出しに入れていたはずの、俺の預金通帳がなくなっていた。預金通帳だけじゃなく、通帳印に実印、印鑑登録証もない。一度バッグや箱に詰めた荷物を出し、通帳や印鑑が混じってないか探すものの、どの荷物にも入ってなかった。

 まさか理恵子が持っていったんじゃ……。

 一瞬、嫌な予感が頭を過ぎるが、彼女が持っていったのは自分の荷物と家財道具だけだ。いくらなんでも、離婚しようとしてる相手の預金通帳や実印まで持っていくわけがない。

 冷たいものが、肌から染み入り骨を濡らすような嫌な感覚がして、もう一度自分の荷物の中を探しはじめた。

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