Gimme Gimme Shock Treatment 其の1

オカマ地獄変

 レストランを出たザーメインとヘンタイロスは、通りを歩きながら先ほどの料理について話していた。大陸料理の華やかさに魅了されたヘンタイロスは、盛り付けの優美を褒めるものの、隣を歩いているザーメインは首を傾げながら聞いている。

「貴公、気付かなかったか? あの料理の味」

「まあっ! ザーメインも気付いたのん? なんだか、どこかで食べたような味だったのよねぇん」

 ザーメインはピタリと足を止め、右手で顎を擦りながらヘンタイロスを見た。

「おそらく、あの料理には魔術調味料が使われておる」

「魔術調味料ですってん!」

 魔術調味料とは、王都ドンロンの錬金術師が魔術師と協力して編み出した調味料である。毎日の献立に頭を悩ます主婦向けに売り出し、簡単に美味しい味付けができることで爆発的ヒット商品になったのだ。

 家庭の主婦向けに作られたものであり、職人を自負する料理人たちからは素人が使う調味料として、誇りある職人が使うのは恥とされているのである。料理が得意なヘンタイロスは、そんな魔術調味料を有名店が使うとは思ってもみなかったのだ。

 再び歩き出してヘンタイロスの横へ来たザーメインに向かい、ヘンタイロスは頷きながら話しかけた。

「道理で食べたことがあるような味だったわん。でも、料理人が魔術調味料を使うなんてん……」

「大勢の客に評価されるには、魔術調味料は手っ取り早い方法じゃろう。どの料理も普通以上の味じゃし万人受けする。じゃが、どの料理も同じような味になってしまう問題もあるがのぅ……」

「職人なら手間暇かけて味付けするものよん。ワタシ、あのお店で働くのはゴメンだわん」

 ザーメインの家の前に到着し、扉を開けようとしたときだった。

「寿司~蕎麦~うどん~。ワグカッチの海で獲れたネタを使った、本場エロ前の寿司は如何かね~」

 通りの向こうから、屋台を引いた老人が声をあげながらやってきたのである。それを見たザーメインが振り返り、ヘンタイロスに向って言った。

「ほう、寿司の屋台か……魔術調味料で舌が痺れてるところじゃ。貴公も一緒に寿司でもどうじゃ?」

「そうねぇん。何貫かいただこうかしらん」

 ヘンタイロスはザーメインより先に歩いていき、声をかけて屋台を止めた。

「大将、二人よん」

「へい! 毎度!」

 屋台の暖簾をくぐると威勢のいい声が響き、屋台を引いていた老人が手際よく準備をはじめる。少々遅れてきたザーメインが暖簾をくぐると、屋台の老人は大声をあげた。

「ザーメインの旦那!」

 大声に驚き顔を上げたザーメインも、目を丸くして屋台の老人を見つめている。一瞬のち、ザーメインが大声をあげた。

「マキーヘ・アヘイジさんじゃないか!」

 今度は二人を見ていたヘンタイロスが声をあげる番だった。

「ザーメイン! アンタ、このお寿司屋さんと知り合いなのん!?」

「無論じゃヘンタイロス! ワシとアヘイジさんは、同じ時期に王宮に奉職しておったのじゃ!」

「まあ! おじいちゃんは王宮の料理人だったのん!」

 ヘンタイロスは驚いて老人を見た。王宮の料理人といえば、イドラ島の超一流の料理人の中でも選りすぐりの料理人が集められる場所である。それは料理人のキング・オブ・キングス、料理の頂点を極めた男たちなのだ!

「アヘイジさんは王宮の総料理長として腕を振るった男。その凄腕から繰り出される絶品料理の数々にワシも舌鼓を打ったものじゃ」

「王宮の総料理長!」

 ヘンタイロスは再び驚いた。総料理長になるためには、超一流の料理人の中でも究極まで腕を極めた者でなければ就けないからである。

 驚きで口を開けたままのヘンタイロスに、ザーメインが語りかけるように話しはじめた。

「食とは人間が生きていく上で欠かせないもの。その食を、極限まで美味に仕上げる王宮の厨房こそ、職人三十六房の頂点に君臨する職人の集まりじゃ。さあヘンタイロス、アヘイジさんの寿司を食べようじゃないか」

 ザーメインが話し終わるとマキーヘ・アヘイジはユラリと動き、一分の無駄もない動きで冊にしてある魚を切りだした。

「ヘッヘッヘ……近頃じゃあ大陸の華美な料理が流行ってるから、若い人が寿司を食うこともなくなっちまった。そちらの兄さんの口にワシの寿司が合うといいんだがねぇ」

 言い終わるとアヘイジは、ネタにワサビを付けて片手でシャリを掴み、ゆっくりした動きで寿司を握った。その本手返しの握り方が様になっており、ヘンタイロスの目がアヘイジに釘付けになっている。

 立て続けに握った寿司をザーメインとヘンタイロスに出すと、アヘイジは二人に声をかけた。

「ザーメーンの旦那、召し上がってくださいまし。兄さんも食ってみてくれ」

 あまりの流麗な握りに心を奪われていたヘンタイロスは我に返り、右手で寿司をつまんで醤油をつけ、寄り目で寿司を見ながら口に入れた。

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