マジ!? 受賞しちゃったよ……
今日の昼休憩中、スマホの着信音が鳴りメールを見ると、「受賞のご案内と賞金について」というタイトルのメールが来ていた。
「かぁ~、迷惑メール久しぶりだなぁ」
二十五年前なら引っかかってるかもしれないが、パソコン通信時代からネットで遊んでる五十歳のオヤジである。今どき小学生でも騙されないようなタイトルでメールを送ってきても、おじさんが騙されるわけない。
どんな笑える内容なのか見てみると、「この度は第3回ツギクル小説大賞の受賞、誠におめでとうございます。受賞内容: AI審査賞 恋愛部門 受賞作品:思い出のステップ」と続けて書いてある。
(あれ……?)
見れば俺が書いた小説が賞を取ったらしい。メールに記載されているURLを無視し、ブックマークから思い当たるページへ行ってみると、なんと登録している小説投稿サイト、ツギクルの賞を獲得したらしく、俺の作品タイトルが掲載されていた。
小説大賞開催を知ったときは、「あ~、どうせ仲間内でクリックし合って得票するような、異世界だの魔王だのの内輪受けヲタ小説が受賞するんだろ?」と思いながら、とりあえず応募だけしておき忘れていたのだ。
突然の連絡で驚いたが、メールとツギクルのサイトを見終わったとき複雑な気分になった。
受賞したのは書いたうちいちばん手を抜いた作品、受賞した賞はAI審査賞、しかも恋愛部門である。審査員が読んで賞をいただくならともかく、AIが恋愛要素をチェックして選んだ賞。AIの判断は現在の人気作のトレンドに近いものほど高評価らしいが、おじさんの三十四年前の経験だし現在の人気作品のトレンドも取り入れて書いてない。おまけに、第3回ツギクル小説大賞の結果発表ページでは、俺の作品だけダメ出しを食らっているのだ。
賞金がもらえるらしいのだが、コンピュータに選ばれコンピュータにダメ出しを食らってるのに賞金をもらっていいんだろうか? まあ、くれるものはもらっておくが、後から「すいません、この夏の暑さでコンピュータが暴走してあんたのクソ小説選んじゃいました。賞を取り消すんで賞金も返してください」なんて言われないだろうか?
人に読まれず、AIに選ばれAIにダメだしされた俺の小説、しかもダメ出しされた箇所は、登場人物を増やして高校生らしくワイワイガヤガヤ感を出そうと書き直した箇所だったし、あまり考えずに昔の体験を二時間くらいで書いただけの手抜き小説だ。それに、いい歳して恋愛部門で受賞なんて、恥ずかしくてリアル世界で言えないじゃないか。ダメ出しされた箇所だってプロに指摘されるならともかく、俺の考えや感性がAIに劣っていると言われてるようで素直に喜べない。
なんだか嬉しさが全然ない受賞なのだが、本当にコンピュータの暴走でもらった賞だったとしても、受賞取り消しは構わないが、いただいた賞金は返さない。この金は俺の酒代に充てさせていただく。でも、預金通帳握ってるのは嫁だしなぁ。家族でファミレス行って終わりの金額だし、まあいいか。
思い出のステップねぇ……。なんであの時、あいつと丘の上で踊ったんだろ……。あ~恥ずかしい……。
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