Autographic 第十七話:獲物

創作長編小説

 おじさんの犬はゴローとハナ、新井さんの犬はジョンとキース。四匹の猟犬に負けないような名前を考え始めたものの、なかなか良い名前が浮かんでこない。それも当然だろう。野犬は体こそ大きいものの毛並みに艶がなく、換毛期ということもあり見た目が身窄らしい。

「どんな名前が似合うかなぁ……毛がボロボロだし、もうちょっと見栄えが良ければなぁ……ボロボロ犬、ボロボロ犬、ボロ犬、ボロ犬、ボロ犬、ボロ、ボロ、ボロ、ボロボロボロボロボ……」

 前を歩く野犬を見ながらブツブツ呟き、なにか良い名前がないか思案していると閃いた!

「そうだ! ロボにしよう!」

 灰色と茶色が混じった毛先が黒い毛、顎から鼻先までが長くて大きく開きそうな口、狼沢で出会ったんだし、小学生の頃読んだシートン動物記の「狼王ロボ」から名前をもらおう。スペイン語で狼を表す「lobo」が狼王ロボの語源だ。山の中で生きてきた野犬にぴったりの名前じゃないか。

 なんだかスッキリした気持ちになり、おじさんと新井さんに名前が決まったことを教えようとすると、犬たちが吠えながら走りはじめた。

「秀人、罠にかかった鹿はすぐそこだ」

 おじさんが振り返り、罠にかかっている鹿の場所を指さした。少し行くと、猟犬に囲まれ罠から逃れようともがく、立派な角が生えた雄鹿が見える。

 おじさんと新井さんにここで待つよう言われ、二人が鹿に近付いて猟銃を構えたとき、突然ロボが鹿目掛けて飛び掛かった!

 ロボはもの凄い跳躍力で鹿に飛びついたと思うと首に咬みついて引きづり倒し、大きく口を開けて鹿の口先に咬みつき鼻と口を塞いでいる。鹿は逃げようと暴れるが、息ができなくなっているのか次第に動きが鈍くなり、最後は体をピクピク痙攣させて死んだ。

 僕だけでなく、おじさんと新井さんも唖然と見つめる中、ロボは死んだ鹿から離れて様子を伺っている。

「たまげた犬だ……まさか一匹で鹿を仕留めちまうとは」

「まったくだ。いい面構えの犬だと思ったけど、まさか自分で鹿を殺しちまうとはなぁ」

 おじさんと新井さんが顔を見合わせて驚嘆している。

 驚いたのは僕も同じだ。猟犬は獲物を追い詰めるのが役目で、とどめを刺すのは人間の役目だと小さい頃からおじさんに聞かされていた。しかしロボは、一匹で鹿を仕留めてしまったのだ。

 おじさんたちは構えていた猟銃を下してケースに入れ、腰に付けた狩猟刀を手にして鹿に近付いていくが、鹿の側にいたロボが唸って威嚇している。

 僕はその時、ロボと一緒にいたもう一匹の野犬と子犬を思い出した。

「おじさん、この鹿はどうするの?」

「売るために鹿猟をしてるわけじゃねえ。俺たちと猟犬が食う分だけ肉を切り分けて、持って帰れねえ分は埋めるって法律で決まってるんだ。よっちゃんは犬の分だけでいいんだんべ?」

「ジビエなんてのが流行ってるらしいけんども、都会の人はよく鹿や猪なんて獣臭えもん食う気にならあ。俺はガキの頃から好きじゃねえんだ」

「おじさん、野犬は他にもいたんだけど、野犬が食べられるように置いておくことはできないの?」

「深い穴を掘って埋めるわけじゃねえから、掘り起こして熊や狐が食っちまうよ。近くに野犬がいたんだったら、野犬も食うだんべえ」

 そう言うとおじさんは、リュックサックを肩から降ろして折り畳みスコップを取り出し、横の窪地に置いた。

「よっちゃん、鹿はここに埋めるんべえ」

「そうすっか」

 新井さんが同意すると二人は狩猟刀を手に、唸るロボを追い払って鹿の解体を始めた。

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