Autographic 第五話:伝説
母さんと二人でバッグや紙袋に私物を詰め込んで荷物を作り終えると、母さんは着替えが入ったバッグを二個だけ両手に持ち家に帰った。一人病室に取り残された僕はベッドに寝転び、犬の雑誌の続きを読みながら、明日退院するという逸る気持ち抑えることにする。
(四国犬ってゴローやハナに似てるなぁ……でも、遺伝子的に狼に一番近い犬が柴犬だったなんて、ちょっとびっくりだな)
アメリカの大学が純血種や混血種、野良犬まで五千頭以上の犬の遺伝子を研究した結果、最も狼に近い遺伝子を持つ犬が柴犬らしい。しかも二位がチャウチャウで三位が秋田犬。日本の犬は、アメリカでも人気の柴犬と秋田犬くらいしか遺伝子を調べてないようなので、おじさんの地犬や甲斐犬、四国犬などの日本原産犬を調べれば、もしかしたら柴犬より狼に近い犬がいるかもしれない。
そんなことを考えながら時間を潰し、夕食を食べてその日は床に就いた。
翌日の昼過ぎ、母さんが迎えにきて、主治医の榛沢先生や看護師さんたちに挨拶を済ませ車に乗り込んだ。久々に感じる病院以外の感覚。きっと刑務所から出た人は同じような感覚を味わうに違いない。
荷物を降ろして自分の部屋に入り、バッグから私物を取り出して片付けた後、病院でできなかったゲームの続きをやろうと思い、ゲーム機の電源を入れディスクをセットした。だが、セーブデータを読み込もうとしてもデータが見当たらない。
「くそっ! 和幸だな!」
おそらく弟の和幸が、僕のゲームで遊びデータを消してしまったに違いない。弟が学校から帰ってきたらたっぷり怒ってやろうと思いながら、前日に数学の教科書を見て勉強が遅れていることを気にしてたのを思い出し、少し勉強することにした。
数学の公式をノートに書き、方程式を解く。何問か解いたときに集中力が途切れてしまったので、パソコンの電源を入れてネットサーフィンを始める。イタリアに住み現地の料理を紹介してる人、ドイツ文化を紹介してる人、フランスの風景写真を掲載してる人、外国人女性と結婚して日々の暮らしをボヤいてる人のブログやニュースを見てるうちに、絶滅したニホンオオカミを探してる人のブログにたどり着いた。
秩父山中で野犬の写真を撮影し、高名な動物学者に「オランダのライデン博物館にあるニホンオオカミの剥製との相違点が見つからない」と言われたらしく、ニホンオオカミの生存を信じて秩父山中で狼探しをしているらしい。ブログに載っている写真は、小鹿野のおじさんの地犬や四国犬に似ており、ニホンオオカミの大きさ自体も中型日本犬くらいの大きさのようだ。
興味を持った僕はニホンオオカミについて調べ始め、ゲームのことで和幸を怒るのも忘れて夕食後も風呂から出ると自室に籠り、夢中になってニホンオオカミの情報を夜中まで調べた。
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