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管理人:Inazuma Ramone

【映画レビュー】北京原人~Who are you?~

雑記帳:読むな! 呪われるぞッ!

 この映画について聞かれると、筆者は勝手に「ジュラシック・パークに対する東映からの回答」と説明している。

 誰が北京原人を演じているのかという仕掛けもまったく話題にならず、制作した東映が大赤字になって会社が倒産しかけたという、いわく付きの超話題作である。

 出演は、緒方直人、片岡礼子、本田博太郎、丹波哲郎、ジョイ・ウォン。監督は「新幹線大爆破」「野生の証明」「人間の証明」などの佐藤純彌。佐藤は、東映が「鉄道員(ぽっぽや)」でこの映画の赤字を埋めるまで、興行失敗の責任を取らされしばらく干されてしまう。

 映画ファンの間では、デビルマンやシベリア超特急と並び、邦画史に残る歴史的失敗作の一つとして語られ続けている映画らしいのだが、そんなもの、東映には掃いて捨てるほどある。迷作だの珍作だの言って北京原人を非難する奴は、娯楽の楽しみ方が本質のところで分かってないのだ。

 20億円と言う予算をかけて作られたこの映画、筆者は公開前にテレビで特番を見て期待に胸を膨らませていた。

 新聞屋さんが「ぜんぜん売れないから」と招待券をくれ、大の東映ファンだった筆者は狂喜して公開を楽しみにしていたのだから。

 そもそも、筆者が東映ファンになったのは高校生の頃である。

 駅前にある東宝や松竹の映画館が次々にポルノ映画館になっていく中、アニメの「東映まんがまつり」という子供向けコンテンツを擁する東映が最後まで残った。

 アニメを上映してないときは古い映画を上映しており、「東映ヤクザまつり」だとばかりに映画を見たものだ。

 温泉あんま芸者、不良番長、徳川セックス禁止令、直撃!地獄拳、仁義の墓場、ドーベルマン刑事、脱獄・広島殺人囚、狂った野獣など、数々の映画が衝撃と共に筆者の脳内に捻じ込まれた。

 スクリーンから客を指さし語りかける山城新伍、血まみれの顔をドアップで抜かれる室田日出男、盗んだ魚を食って下痢する松方弘樹、虫のような動きでポン中を演じた田中邦衛、そして便槽へと落下する千葉真一。

 青春時代の多感な時期に、そんな映画を見て育った筆者が北京原人を楽しみにしないはずはない。公開が始まってすぐ、筆者は映画館に向かった。

 昔の映画館と違い綺麗になったシネコンの中には、筆者の他に数えるほどしか人がいない。孫たちを連れてきたおばあちゃんに暇つぶしに来たような中年男、家族連れが数組。

 上映前は騒いでいた子供たちも、映画が始まり「いよいよ人間が神になる! 神になるぞー!」という丹波哲郎の声で、筆者同様スクリーンに釘付けになった。もっとも、筆者は彼の頭に視線がいってしまってたのだが。

 2001年、東シナ海の海底に沈んでいる北京原人の化石を発見した日本の生命科学研究所は、その化石骨からDNAを採取して増殖させ、北京原人を甦らせようという驚愕の実験に着手する。

 宇宙空間の有人シャトル内で、頭蓋骨から採取したDNAを使って北京原人を蘇らせようとする緊迫の瞬間。しかし、時間変異プロジェクト中に北京原人DNAが入ったベビーシャトルに隕石が激突し、地上に落下してしまった。

 他国に回収されることを恐れて自爆させようとするも、片岡礼子に「あのシャトルには命が生まれかかってます!」と甘っちょろいヒューマニズムで反論され、爆破は失敗してしまう。

 見失ったシャトルをヘリから捜索し、水上に落下したシャトルを発見。ハッチが開いており、足跡もあるので北京原人が生きていることを確信した緒方直人は、片岡礼子と共に森の中に捜索に向かった。

 川辺で3人の北京原人を発見し、「やったぞ! 北京原人を作り出したんだ!」と狂喜する緒方。だが、スペースシャトルの中では、いわば人工授精に成功した段階だったはずだ。

 筆者は映画を見ながら、なぜ北京原人が大人になっており子供まで作っているのか、時間変異プロジェクトの都合のよさに頭の中でクエスチョンマークが点灯した。そして、映画の副題である「Who are you?」は、この場面のためにあるのではないかと思考しはじめたときだったのである。

「ウパー!」と叫びながら石を投げつける北京原人。危険を感じて応援を呼ぼうとする片岡を制し、緒方は突然服を脱ぎだしたのだ!

 パンツ一丁になった緒方を真似て、自分も裸になる片岡。そして緒方は、リュックに刺してある太い棒を取り出したと思うと、北京原人に向け振ったのである!

 なんと、リュックに刺さっていた太い棒はフランスパンだったのだ!

「フ、フランスパン……」

 スクリーンを見ながら、その凄まじい演出と辻褄の合わない脚本を真剣な演技でカバーする緒方に筆者は好感を持ち、このシーンこそが北京原人で一番の見どころであることを悟ったのだ。

 自らの身体に泥を塗りたくり、フランスパン片手に北京原人に近付く緒方と片岡。それでも石を投げつけられて危うく殺されかけるが、本田博太郎演じる北京原人がフランスパンに興味を示して九死に一生を得た。

 パンツ一丁のまま洞窟に移動して北京原人の生活を観察し、タカシ、ハナコ、ケンジという名前を付ける。

 陸上競技に混じってしまい超人的な力を発揮する北京原人。実験に気づいたアメリカや中国の妨害がはじまり、ジョイ・ウォン率いる中国の取材クルーにタカシとケンジが誘拐されてしまう。残ったハナコは、傷心のため体調を崩し倒れてしまった。

 人間のエゴに気づいた緒方が、片岡と共にハナコの記憶に残る故郷、モンゴル平原の山に帰そうとするが、同時にジョイ・ウォンも人間のエゴに気づきタカシとケンジを連れてモンゴルへ向かう。

 再会を果たした北京原人親子は、やはり生命科学研究所が復活させていたマンモスの背に乗ると、緒方たちとの別れを惜しみながら故郷へ帰っていき映画は終わる。

 エンドロールが終わり、館内が明るくなっても立ち上がることができなかった。筆者は、「面白い映画を作ろう」という職人の意地を見せつけられたのだ。科学的事実や辻褄なんかどうでもいい、面白くなければ映画じゃない、と言わんばかりの映画職人の魂を。

 それは肛門の皺を数える仕事を請け負った職人が、「これが俺の仕事だ!」とばかりに鏡で己の肛門を映しながら真剣に数えてるのを見て、「プッ」と噴き出してしまうのに似ているのかもしれない。

 この映画こそ、ハリウッドの映画人が作った「ジュラシック・パーク」に対する、東映の映画職人からの回答なのだ。

 娯楽映画を、面白い映画を作りたい職人の魂が見たいなら、ぜひ北京原人を見ていただきたい。そして、片岡礼子と共に全裸になり、緒方直人と共にフランスパンを振ってほしい。

 その時こそ、新たなる東映ファンが、ジャンクムービーマニアが生まれた瞬間なのである。

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