夢幻の旅:第三十ニ話(最終話)
「こんなに早く亡くなるなんて……」
「光平、迷わずお父さんのところへ行くんだよ」
八月二十日、身内だけで光平さんの四十九日法要を行い、お義父さんが眠る墓への納骨を終えた。
荼毘だびに付してもらう ...
夢幻の旅:第三十一話
そんな気配を感じながら、放射線治療に投薬治療が続く毎日。
ひどく体が痛むときは鎮痛剤の医療用モルヒネを処方され、頭がボゥッとしてしまい意識を保つのも難しい。
ベッドに寝てるだけでも体中が痛い。特に背中の、 ...
夢幻の旅:第三十話
緩和ケア病棟は、今いる病棟の南側にある。
二つの病棟をつなぐ二階の連絡通路に行くため、俺たちはエレベーターに乗り込んだ。
扉が閉まると、俺は溢あふれ出る涙を袖口で拭き、大きく溜息をついた。
「 ...
夢幻の旅:第二十九話
しばらくの間、椅子に座ったまま天井を見ていたが、やはりというか、当然のことだが思考が停止してしまい何も考えることができない。
頭の中にあるのは『死』の文字だけ。
人は誰でも死ぬと分かっていながら、いざ自分 ...
夢幻の旅:第二十八話
道路に出て、車を走らせてから少しすると、やっと緊張から解放され息が整っていく。
ここ最近、自宅で起こる怪異や俺のスマホに自分からのメールが着信するなど、不思議な現象が続いている。もしかしたら、俺が入院してる間も怪異が続 ...
夢幻の旅:第二十七話
駐車場から病院の前を通る道に出ると、東に向かって通勤ラッシュが終わった道路を走る。時間は朝十時過ぎ、交通量は少なく車は快調に走っていく。
やっと退屈な入院生活から解放されたためか、俺は自然と助手席に座る良美に話しかけて ...
夢幻の旅:第二十六話
ケースを開きスマホの画面を見ると、電池が残り三十パーセントを切っている。
この先何日かの入院生活を考えて少々焦り、充電用のケーブルを持ってきてくれたか聞いてみた。
「良美、スマホのケーブル持ってきてくれた? ...
夢幻の旅:第二十五話
廊下に出て右に行くと、突き当たって左側にテーブルやベンチが設置されたスペースがある。
その場所に人が多くなかったこともあり、窓際まで点滴をぶら下げたイルリガートルを押していき、ベンチに座って電話をすることにした。
夢幻の旅:第二十四話
「良美、売店で水を買ってきてくれないか」
俺はベッドに横になったまま、クローゼットに荷物を収納している良美に向かって、水を買ってきてくれるよう頼んだ。
昨夜からの水分補給が朝食の味噌汁と水だけのためか、喉が ...
夢幻の旅:第二十三話
――救急車の通過を知らせる、騒々しいアナウンス。
けたたましく鳴り響くサイレンに叩き起こされて目を開くと、カーテンで仕切られた病室のベッドの上で寝ていた。
(そうだ、店で倒れて入院させられたんだ……)