第二話 Big Women 其の8
キラー・トーア・オマタは部屋の奥に行き、棚に置いてあった林檎を一つ掴んで振り向くと、ベラマッチャに投げ渡す。ベラマッチャがオマタから投げ渡された林檎を受け取ると、間髪入れずタイガー・ジェット・チンが説明してくれた。
「そいつはプレイが終わった後食べる事になってる林檎だ。この店と提携してる農園で生産した、栄養たっぷりに品種改良された林檎らしい。食うと頭がすっきりして疲れも吹っ飛ぶ」
「あぁ、その林檎は効くぜ。次の客が入るまで暫く時間を空ける事になっている。廊下の左手に中庭に出る扉がある。外に出て少し涼んでくるといい」
ベラマッチャはキラー・トーア・オマタの言葉に頷き、林檎を手に取り部屋を出た。太った女との激しいプレイが終わったばかりで身体が火照っている。おそらくは自身の顔も赤くなってるに違いない。
一度のプレイで身体が怠くなってしまったのに、一日に何人も客を取らないと生きる事すら覚束ない事実を体で理解したベラマッチャは、廊下を歩きながら甘い考えでいた自分自身に少々腹を立てていた。「客から指名されないと飯が食えない」と言った店主の言葉は嘘ではなかったからであり、この仕事を舐めていたのはベラマッチャ自身だったからである。
そんな事を考えながら歩いていると、ベラマッチャの耳に女の歌声が聞こえてきた。
「赤いチ○コに唇寄せて~♪ 黙ってみている青い空~♪ チン○はなんにも言わないけれど♪ ○ンコの気持ちぃは~♪ よ~く分かる~♪ チン○可愛いや~可愛いやチ○コ~♪」
顔を上げると、廊下の窓から外を見ながら若い女が歌っている。女が客として来店する舐め犬屋で、女の舐め犬がいるとは思えない。店の掃除などをする女中が休んでいるのかと思ったベラマッチャは、女に中庭へ出る扉がどこか聞く事にした。
「楽しく歌っているところ失礼だが、君は店の掃除婦かね? 中庭に出たいのだが、扉はどこだろうか?」
ベラマッチャの問いかけに、女は歌を中断して振り向き、ベラマッチャの頭の天辺から爪先までジロジロと三往復眺め、クスリと笑って口を開いた。
「新入りかい? アタイの名はシャブリン・ローズ。この店の舐め犬さ」
女の答えにベラマッチャは軽く驚いた。女の舐め犬が在籍しているとは思ってもみなかったのだ。
「キミィ、ここは女性客を相手にする風俗店のはずだが……。何故君のようなレディが舐め犬を?」
女の客を相手にする風俗店で女の舐め犬が在籍しているなど、想像の斜め四十五度上をいく話だ。頭上で疑問符をクルクル回すベラマッチャに向き直った女は、歩み寄りながら話し始めた。
「フッ……新入りの舐め犬には理解できないだろうね。アタイは以前、男の摩羅をしゃぶる抜き専門のサロンで働いてたんだけど、この店のオヤジ様に舌技を見込まれて『ドッグファイト』に移籍したのさ。世の中には女が好きな女が意外と多いからね」
予想を裏切る女の答えに、ベラマッチャの思考は混乱寸前だった。だが、考えてみれば、世の中にはヘンタイロスのようなオカマも存在するのだ。女が好きな女が存在しても不思議ではないだろうし、この店の抜け目なさそうな店主が女の舐め犬を用意しない筈がない。
ベラマッチャが思考を整理していると、再びシャブリン・ローズが喋りはじめた。
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