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第4回ツギクル小説大賞で、当サイトの作品「夢幻の旅」が奨励賞を受賞しました。
管理人:Inazuma Ramone

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Autographic 第十五話:再会

創作長編小説

 まるで道案内するかのように僕の前を歩く野犬。

 後ろから観察すると、毛色や体型からハスキー犬と四国犬が混じったような雑種犬と思われるが、長くて太い尾の先は切断されたように丸く、先端の毛は黒い。ピンと立った耳は地犬や甲斐犬に比べ小さめで、先が丸い三角形になっている。おまけに山中で狩りをして暮らしてるためか、毛並みに艶が無くボサボサしていた。

 右脚を引きずりながら必死で後を付いていくが、野犬は時々立ち止まって僕の方を振り返る。さっき姿を現した、子犬を連れた野犬はどこかへ行ってしまったのか姿を見せない。

 頭を打ったせいか少し目が回る。気になって岩に打ち付けた後頭部を触ってみたが、すでに血は固まってきていて瘡蓋を作りはじめていた。白血病を患っているため血が止まりにくく、ちょっとした切り傷でも驚くくらい出血してしまう。後頭部を打ったとはいえ傷自体は小さな切り傷で深くもないし、おじさんに黙っていれば家に帰されることもないはずだ。

 そんなことを考えながら、野犬の後に付いて川沿いの岩の上を一時間ほど歩いて行くと、川の右手に少し開けた場所が見える。

 野犬はここで立ち止まり、地面に横たわって丸くなった。

 開けたとはいっても、岩だらけの川沿いから木々が鬱蒼と茂る森の中に来ただけだ。背の高い草が生えてないだけなのだが、狭い川沿いの岩場から比べると開放感を感じる。辺りを見ると、木漏れ日の中の枝の上で栗鼠たちが餌を食べていた。

 体の痛みを堪え、右足を引きずりながら歩いたためか凄く疲れている。近くの倒木に腰を下ろし、餌を食べる栗鼠を見ながら水筒の水を飲む。ひと息ついたところで野犬を見ると、安心しきっているのか眠ってしまっていた。

「この犬、なんで僕をここへ連れてきたんだろう」

 小さな声で呟き、あれこれ考えているうちに疲労からか睡魔に襲われる。倒木に座ったままウトウト眠りはじめて頭がガクンと落ちたとき、遠くから犬が吠える声が聞こえて目が覚めた。

(ゴローとハナの声だ! おじさんたちが近くにいるぞ!)

 慌てて立ち上がり、両手を頬に充てて叫んだ。

「おじさ~ん! 新井さ~ん! ゴロー! ハナ~!」

 何度も何度も叫んでいると、犬たちの吠え声が大きくなってくる。それと同時に、人の叫び声も聞こえてきた。

「お~い! 秀人~!」

 間違いない。おじさんの声だ!

 ここで下手に動くと会えないかもしれないと思い、僕は動かず待つことにした。野犬を見ると、寝そべったまま首を上げ、犬の声が聞こえる方向に耳を向けてジッと見つめている。

 ワンワン吠える犬の声が近付いてくると、野犬は起き上がって僕の側へきた。訓練された犬なのか、他の犬が吠えているのに野犬は吠えない。犬が吠える声を聞きながら見つめるだけだ。

 この犬を訓練した人に感心しているとゴローとハナが姿を現し、後方におじさんと新井さん、二匹の甲斐犬が見えてきた。

「ゴロー! ハナ!」

 二匹の名前を呼んだものの、なぜかゴローもハナも吠えるだけで近寄ってこない。甲斐犬のジョンとキースも来たが、ゴローたちのところで立ち止まった。

「秀人! 大丈夫か!」

「おじさん! 新井さん!」

 おじさんの姿を見た途端、緊張から解放されて涙が溢れそうになる。おじさんと新井さんは、右脚を引きずり近付く僕に、その場から動かないよう叫んでいた。

 四匹の猟犬を見ると、いつの間にか吠えるのを止め、遠巻きに野犬を見ている。野犬は猟犬の存在など意に介さないようで、静かに僕の横に立ち、正面から来るおじさんたちを見つめていた。

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創作長編小説

Posted by Inazuma Ramone