第六話 Horror Business 其の1
ベラマッチャたちは歩きながら、ヘンタイロスの背中に括り付けてある振り分け荷物からサンドガサ・ハットとカッパ・マントを出して各々着込んだ。
早朝の街は人出も少なく、通りを歩いているのは行商人や勤め人、賭場帰りの商家の旦那風の人たちである。旅の途中であろう渡世人姿の男もおり、ベラマッチャたちが目立つ事もない。
ベラマッチャは先程から不安に思っていた事が頭から離れず、これから廃屋へ行き危険を冒す道中という事も二の次になっていた。歩を進める毎に、ベラマッチャの不安は増大していく。
とうとう耐えられなくなったベラマッチャは、隣を歩くポコリーノに小声で不安をブチまけた。
「キ……キミィ、レディは妊娠していると言っとったが、まさか僕の子じゃあないだろうね?」
「お前、中出ししたのが不安か? 安心しろよ。昨日今日受精したんじゃ悪阻は始まらねえ。お前の子供じゃねえさ」
ポコリーノの言葉に、ベラマッチャはパッと顔を明るくした。
「そうかねッ! その言葉を聞いて安心したよッ! もし僕の子なら、レディと子供のために君等と戦わねばならんからな!」
ホッとしたベラマッチャの頭上から、後ろを歩いているパンチョスが声を掛けてきた。
「フッフッフ……。敵の女でも妊娠させれば味方する。流石はベラマッチャさん、男だぜ」
ベラマッチャの緊張も解れ、雑談しながら歩く一行は、とうとうザブルド川に辿り着いた。土手へ上がり川を見渡すと、霞みがかかる向こう岸の手前に木が欝蒼と生い茂る中州が見える。
ベラマッチャたちは河原に下りると、手分けして小船を探し始めた。
「船があったぞ!」
探し始めてすぐに、上流を探していたポコリーノの声が聞こえ、ベラマッチャたちは急いでポコリーノの元へ向かった。
船は漁師が使っているのであろうか手入れが行き届いており、櫓も備え付けられている。これなら川の途中で沈む事もないだろう。
まずシャザーン卿がヅラスカヤを連れて船に乗り込み、ベラマッチャたちも船に乗ると、パンチョスが船を岸から押し出して飛び乗った。
パンチョスが櫓を掴んで中州に向かって漕ぎ始めると、ベラマッチャは川面を駆ける風の冷たさに震えながらカッパ・マントを脱ぎ、妊娠しているヅラスカヤを気遣って肩にかけた。
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