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第4回ツギクル小説大賞で、当サイトの作品「夢幻の旅」が奨励賞を受賞しました。
管理人:Inazuma Ramone

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ロックンロール・ライダー:第十二話

創作長編小説

 目の前で一気にビールを飲み干し、空になったジョッキを手に立ち上がると、部屋のドアを開けて叫ぶ。

「お姉さーん! 生ビール二杯追加!」

 板野は、まるで餌を待つ犬のようにドアの前に立ち、ひったくるようにジョッキを奪って席に戻ってきた。

 ひとつを俺の前に置き、もうひとつを自分で飲む。

「飲めよ。もう誰も気にしちゃいねえぜ」

 板野は俺にビールを勧め、手にしたジョッキを煽って自らも腹に流し込んでいく。

 俺もグビグビ飲んだところで、また板野が口を開いた。

「ニューアルバム発売に合わせて、スターグラフのツアーがある。東京のライブは新宿ロストだ。おまえ、俺と一緒に行くか?」

「もちろん行きますよ! 板野さん、でしたっけ? 俺、安養寺です。駒田主任のサブシステムに配属されました」

「駒田チームか。厳しいぞぉ、あの女は。新婚早々旦那が浮気して、怒りの回し蹴り喰らわせてノックアウトしたんだからな」

「駒田主任、結婚してるんですか?」

「いや、旦那がビビッて浮気相手と逃げたとかで離婚したよ」

「へぇ~、しかし回し蹴りで旦那をノックアウトって凄いっスね」

「高校、大学と空手部だったらしいからな。巨乳だし顔もカワイイけど、あの気性の荒さじゃあ、もう嫁の貰い手は現れねえだっぺぇ」

 キリッとした感じで気の強そうな女だと思ってたが、まさか回し蹴りで旦那を失神させたとは。

 ビールを一気に飲み干してジョッキをテーブルに置くと、再び板野が追加注文する。

 待っている間に唐揚げや焼き鳥をパクつきながら、離れた場所に座る駒田主任を一瞥するものの、酒を飲みながら談笑する姿からは、とても空手部仕込みのキツい女には見えない。

 そんなことをしているうちに、店員がビールを持ってきて俺と板野の前に置いた。

「板野さん、駒田主任が巨乳で顔もカワイイって言ってましたけど、巨乳が好きなんですか?」

 美味そうに酒を飲む板野に、さっき話していたことを聞いてみた。研修中の駒田主任の態度に、ひょっとしたら俺の童貞喪失も近いんじゃないかという予感がしたからだ。

「そりゃあ男なら巨乳が好きだっぺ。もっとも新井さんみたいに、自分よりデカくて貧乳の女が好きっていう変わったのもいるけどな」

「新井さん? 板野さんがやってるサブシステムのリーダーですか?」

「向こうに座ってる髭剃ひげそり跡が目立つ眼鏡が新井さんだ。ソープランドが好きで、週末は風俗店通いに付き合わされるから気をつけろよ」

「風俗店……」

 ソープランド、それは大人が通う男のパラダイス。社会人になったら行ってみたいと思ってた場所だ。

 俺の友達など年齢を偽り、高校時代からバイト代を注ぎ込んで通うほどだったし、麻薬のような常習性がある場所に違いない。

 裸のお姉さんに優しく手ほどきされてるところを想像していると、誰かが俺の隣に腰掛けた。

「おい板野、俺がなんだって?」

 見れば、隣に来た男は髭剃り跡が目立つ眼鏡の男である。

「あっ、新井さん! 安養寺が週末のリラクゼーションに興味があるって言ってました」

「そうか! 安養寺君もスキか! 俺と一緒に吉原で心身の疲れを癒そう!」

「いや、俺は何も言ってない……」

 急に吉原へ行くと言われても困る。四月の給料は全額支給されてないし、今月の給料日がくるまで慎ましい生活をしないと金が足らなくなってしまう。

 面食らい戸惑とまどっていると、横から女の怒鳴り声が響いた。

「新井君! うちの新人にイヤらしい遊びを教えないで! 板野を連れていけばいいでしょ!」

 声の主は駒田主任。見れば怒りの形相で新井さんをにらんでいる。

「安養寺君は洋子さんに気に入られてるんだな。かわいそうに……」

 その鬼のような表情を見て新井主任はボソッとつぶやき、身をすくめて元の席へ戻っていく。

 もう全員酒が回ってドンチャン騒ぎ状態。かたまりがいくつかできて皆が大声で話し、課長もネクタイを頭に巻き付けて部長相手にクダを巻いている。

 大騒動のような室内で、俺も酔っぱらって顔を真っ赤にした板野さんと共に飲む量を加速させていく。

 だいぶ酒が入り、板野さんの口数が少なくなってきたところで焼酎の追加を頼み、トイレに立った。

 店内は酔った客の話し声や笑い声で大賑おおにぎわい。六本木という場所柄、サラリーマンや大学生風のグループだけでなく外国人グループまでいる。

 店員にトイレの場所を聞き、左右どちらが男子トイレか確認していると、女子トイレのドアが開き外人の女が現れた。

「オゥ!」

 突然もの凄い勢いで開いたドアに驚き立ち尽くしていると、出てきた外人女もびっくりしたのか立ったまま俺を見つめている。

 身長は俺より少し低いくらいで緑色の瞳、赤茶色の髪をした骨太なゴツい女で、歳は三十歳前後だろうか。ケツはデカいが脚は細い、テレビや映画で見る典型的な白人の体つきだ。

 女と見つめ合っていることにハッとし、慌ててトイレに入って用を足した。

 席に戻ると全員出来上がっており、そろそろお開きというムードが漂っている。楽しいひと時は終わり、シンデレラのように現実に戻る時間がきたのだ。

「えー、そろそろ時間となりますので、このへんで締めたいと思います。部長、お願いします」

 大滝課長が頭からネクタイを外して立ち上がり、次いで真っ赤な顔の八木部長が締めの挨拶をはじめる。

「皆さん、お疲れさまでした。お店の人が時間を告げに来ましたんで、このへんで楽しい飲み会を終わりにしたいと思います。まだ飲み足らない人は、この後自腹で二次会に行ってください」

「では一本締めで終わりにしましょう。全員、起立してください」

 全員立ち上がり、課長の掛け声に合わせる体制に入る。一回だけ手を叩く一本締めか、それとも三本締めの一回目だけなのか聞く奴がいたが、やるのは三本締めの一回目だけらしい。

「では開発部システム一課の前途を祝して!」

 掛け声に合わせて手を叩き、「お疲れさまでした」という言葉でちょっとした緊張を伴う締めが終わった。

「皆さん、来週から頑張りましょう!」

 歓迎会の支払いは会社持ち。八木部長が伝票を手に大滝課長と共に支払いへ行き、その間に他の人たちは店を出た。道路には、同じ店で飲んでいた外国人グループもいる。

 八木部長と大滝課長が出てくるのを待ち、全員で挨拶して解散。まだ飲みたい人たちは他の店に向かい、帰りたい人たちは地下鉄の駅に向かう。

 俺はもう一度トイレに行きたくなり、店に戻って用を足してから帰ることにした。

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Posted by Inazuma Ramone