第四話 Death,Agony and Screams 其の3
――どれくらいの時間、眠っていたのだろう。ギターの弦を弾く音で目覚めたベラマッチャは、両手を伸ばして欠伸し、固まった身体を解した。
身体を起こすと、パンチョスがギターの弦をチューニングしている姿が目に入る。周りを見ると、みな既に起きている。
「ベラマッチャったら、お寝坊さんだわん。ウフフ……」
ランプの炎が揺れる薄明かりの中、ヘンタイロスが紅茶を淹れて手渡してくれた。
湯気の立つ紅茶を啜りながら、ベラマッチャは誰に話し掛けるともなく口を開いた。
「もう日が落ちるな」
ベラマッチャの言葉に、シャザーン卿が頷いた。
「日が落ちたら、すぐホテルへ向かうんじゃ。全員、ポロスで買った被り物を忘れるでないぞ」
言い終わるとシャザーン卿は、ヘンタイロスの背中に括り付けてあるバックパックに面を入れ、テーブルの上のカップを掴んで一口啜り、パンチョスもギターを置いて不敵な笑みを浮かべる面にキスすると、バックパックに仕舞い込んだ。
ベラマッチャもポコリーノと一緒にバックパックに面を入れたが、ポコリーノの学帽が目に入り、ふと素朴な疑問が浮かび上がった。
「ポコリーノ君、失礼だが、サンドガサ・ハットの様に、面も学帽の上から被るのかね?」
「ああ、学帽とガクランは俺のトレードマークだからな。学帽を脱ぐ気にはならねえのさ」
「流石はポロスの『小学十年生』ねん」
ポコリーノはヘンタイロスを見ると、ニヤリと笑った。
「フッ……正確には『小学十五年生』だ。もっとも、まだ除籍されてなければ、だがな」
そう言うと、ポコリーノはカッパ・マントとサンドガサ・ハットを身に付けた。
それを見たベラマッチャたちも、カッパ・マントとサンドガサ・ハットを身に付け、準備を整える。
ベラマッチャは、近くにいたスッペクタにカツラを被るように言い、窓から表を見た。
「日が落ちたな」
ベラマッチャは全員の支度が整ったのを見ると、部屋の扉を開けて階段を降りた。
夜の闇の中、マラッコの屋敷の庭に出て門へ向かうと、門番の若い者が行き先を尋ねてくる。
「お客人、どちらへ?」
「むぅ、賭場で少々遊んでくるよ」
ベラマッチャが答えると、門番の若い者は人数が増えているのに気付かないのか、そのまま外へ出してくれた。
門の外でシャザーン卿がヘンタイロスに騎乗すると、一行はホテルへ向かった。
宵闇のワグカッチは人出が多く、雑踏の中を縫うようにして進まなければならない。喧騒の中、街の中心部に出た一行は、夜の街の誘惑にも惑わされずに目的のホテルへと辿り着いた。
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