第三話 Substitute 其の4
ベラマッチャたちをジロリと見回し、テーブルの上に紅茶を置いたザーメインの顔は険しく、眉間に皺を寄せている。
ザーメインは何事か考える様に天井を見上げたかと思うと、再びベラマッチャたちを見た。
「カツラK.G.B.のエージェントじゃな……。間違いあるまい」
「カツラK.G.B.?」
ベラマッチャたちが首を捻っていると、ザーメインは息を吸い込み、大きな声で再び喋り始めた。
「王宮に三十六房あり! 古来より、王宮には王侯貴族専門に仕事をする、イドラ島の頂点に立つ職人たちが工房を構えておる。その技は凄まじく、物に職人の『念』が宿り、一種の魔力すら帯びるほど。貴公等が見たのは、おそらく『魔ヅラ』じゃろう。王宮三十六房の一つ、『K.G.B.』が動いておる!」
ベラマッチャたちは仰天した! ザーメインは王宮の手の者だと言っているのである!
庶民のために政治を行なう王宮の者が、何故ワグカッチの暴行族に『魔ヅラ』を被せるのか? 大陸との戦争で困窮を極めている民に、『K.G.B.』とやらが手を出してくる理由が判らない。
ベラマッチャたちは困惑した顔でザーメインを見た。
「魔ヅラは『K.G.B.』が作る物……。その昔、天才的なカツラ職人がおった。男は職人としての腕を見込まれ、王宮に工房を構えた。男の名はバロム=ハン。『カツラ・ガレージ・バロム=ハン』がK.G.B.の前身じゃ」
話を聞いていたベラマッチャは、後ろに居るスッペクタをチラリと見た。スッペクタは、雲の上の存在である王宮が手を出してきた事実に、恐怖のあまり震えが止まらなくなっている。王宮の貴族から見れば、スッペクタなど虫けら同然である。その気になれば、簡単に捻り潰されてしまうだろう。
ベラマッチャがザーメインの蒼ざめた顔を見ていると、後ろからスッペクタの声がした。おそらく、僅かに残った勇気を振り絞ったのであろう。
「じゃあ、俺にカツラを被せた熟女は王宮の偉い人……」
「むぅッ、女じゃと! このザーメイン、かつて女エージェントと一戦交えた事がある!」
ザーメインの顔が紅潮し始め、急に昔を懐かしむ様な口振りに変化した。
「王宮の職人は男しかおらん。女のエージェントは男のエージェント、即ち職人のアシスタントじゃ。女エージェントは王や貴族のベッドの相手もする。このザーメイン、王宮に奉職していた時分、ベッドで手合わせした事がある。その技はまさに絶技。この世のものとは思えん快楽じゃった。女エージェントは、牛ならぬ男に跨り乗りこなす事から、通称『股ドール』と言われる」
ザーメインはエージェントと戦った事があるのだ! ベラマッチャが驚いていると、横に座っていたシャザーン卿が興味深そうに尋ねた。
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