惑星ブルース:再開編
「よお、ベラマッチャ! 久しぶりじゃねえか。酒でも飲みにきたのかい? へっへっへ……どうだい? 転職後の生活は?」
アンソニー・ベラマッチャは、ポロスの街にあるポコリーノが不法占拠中の空き家に来ていた。そこには、シャザーン卿とヘンタイロス、カルロス・パンチョスもいる。
「むぅ、ここはポコリーノ君の家ではないか。突然ここにいる理由が分からんが、なぜ君たちは集合しとるのかね?」
「余が知るわけなかろう。長い間中断されて食っていけず、全員が転職してバラバラだったんじゃからのぅ」
「そうだぜベラマッチャさん。俺たちは放置されてる期間が長すぎて、生活のため全員サラリーマンに転職したんじゃねえか」
「そうよん! せっかくワタシが活躍する話だったのに、作者が無能だから書けなくなって中断しちゃってん……」
どうやらシャザーン卿もパンチョスも、ヘンタイロスもポコリーノの家にいる理由が分からないようだ。ベラマッチャも己がここにいる理由が分からず、何度も首を捻った。作者が執筆放棄して以来、動くことができない自分たちは、生活のため全員がサラリーマン生活を始めた。安定した今の生活を捨て、再び『惑星ブルース』などという読者がいないクソ物語に登場し、安い出演料でコキ使われる生活に戻るつもりは毛頭ない。
ベラマッチャたちが考え込んでいると扉が開き、ザーメインが現れた。
「おぉ~、貴公ら……」
「ザーメイン……」
ザーメインは懐かしさからか、ベラマッチャたちと握手して回る。どうやらザーメインも、気がついたらポコリーノの家に来ていたようである。
「ザーメイン、なぜ僕らはポコリーノ君の家に……」
「ワシにも分からん。おそらくこれは魔術を超えた力が働いておるか、この宇宙のバランスが崩れたかじゃ」
「魔術を超えた力……」
ザーメインの言葉を聞き、その場にいる全員が悪い予感がした。おそらくザーメインも同じ予感がするのだろう。顔が青ざめている。
「老人ホームに入って若い介護士の体を触りながら悠々自適な生活を送ろうと思っておったのに、いきなり働くことになるとはのぅ」
「働くってまさか……」
「これからそれを聞くのじゃ」
全員ポコリーノの家から出ると、ザーメインが両手を開き空に向けた。なんとザーメインの掌には、右手に眼、左手に口が付いていたのである! そしてザーメインがブツブツ呪文を唱えると、空に浮かぶ雲がゆっくり地上に降りながら徐々に人の形に変化し、やがて完全な人間となって地上に降り立った!
「よう役立たずども! 全員そろったな? 仕事だぞ!」
「仕事? 俺たちは転職したんだ。無能な作者に愛想を尽かせてな」
カルロス・パンチョスの言葉に、空から降りてきた男はイラついた様子で顔をしかめ、ベラマッチャたちを見回し怒鳴り散らしはじめた。
「ケッ! なぁ~にが転職だ! 作者の俺が転職したくてもできねえってのに、偉そうなこと抜かしてんじゃねえ! だいたいてめえらが無茶苦茶やるから俺が書けなくなったんだよ! ファンタジーって分かってるのか!? どう見ても内容が番長漫画じゃねえか! いま流行りの異世界だのチートだのに持っていけよ! この業界、人気が全てなんだ! 人気があるネット小説を見てみろ! ちゃんと読者が好む設定でキャラクターも読者にウケる行動しかしてねえじゃねえか! もっと読者をリサーチして営業活動しろよ! 読者に媚を売るんだよ媚を! 笑顔笑顔! 男気だの根性だので動いてねえで、萌え~、でいけよ! 時代はオタクなんだよオタク!」
明らかに作者らしき男の暴言の数々に、ザーメインが反論した!
「しかしワシらを考え動かしておるのは貴公じゃ。貴公がリサーチし、萌え~、で動かさねばどうにもなるまい?」
ザーメインの核心を突いたツッコミに作者は一瞬たじろいだが、すぐザーメインをニラんで言い返す。
「作中で唯一まともな魔法が使える奴が、こんなところで魔法を使いやがって本編じゃ出してねえじゃねえか! しかも掌に眼と口があるってのは、この後出てくるんだぞ! こんなところでネタをバラしてるんじゃねえ! 本当に老人ホームに入れちまうぞ! まったく穀潰しどもが、全部俺任せで手を抜くことばっかり考えてやがって!」
作者の発言に一同がキレた!
「こ~の馬鹿野郎~っ! 全部てめえの責任じゃあねえか~っ!」
「ゲェッ!」
唸りを上げるポコリーノの殺人パンチを食らって悲鳴を上げながら地面を転げまわる作者に、目を吊り上げたキャラクターたちが襲いかかった!
「僕はいつまで風俗店で働かされるのかね!」
「はやくワタシにお料理させてよん!」
「逐電したままで余の登場機会がないのはどういうことじゃ!?」
「このカルロス・パンチョス様こそ登場機会がねえぞ! 早く出しやがれ!」
ザーメインは作者を殴る登場人物たちを制し、集団リンチが終わってヨロヨロ立ち上がる作者に向かって言い放った。
「貴公、この先のストーリーは考えてあるんじゃろうな?」
「そっ、それが……長い間放置してたんで忘れちまったんだ……」
「こっ、この大馬鹿野郎~っ!」
再びポコリーノの殺人パンチを食らい地面を転げまわる作者に、登場人物たちは冷たい視線を投げつけてポコリーノの家に入っていった。作者はブツブツ悪態をつきながら再び天に昇り、頭を抱えて必死でストーリーを思い出そうとした。
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