第一話 Knife Edge 其の8
「ご注文はお決まりでしょうか?」
メニューを持って来た男が注文を伺うと、ザーメインとヘンタイロスはお勧めメニューであるヒラメのムニエルを注文し、ポコリーノは十六文ステーキを注文した。
オーダーを取りに来た男が厨房に注文を伝えると、ヘンタイロスは興味深そうにレストランの中を見回し始めた。大陸様式の店作りであり、店内はイドラ島ではあまり見かけない洒落た作りになっている。部屋の隅に鉢植えの観葉植物が置いてあり、照明も大陸風のランプを使っている。だが自分たちが座っているカウンターは大陸風の店に馴染まない。まるで寿司屋かパブのようである。
ヘンタイロスは疑問に思った事をカウンター内の従業員に聞いてみる事にした。
「ねえん店員さん、お洒落で素敵なお店だけど、寿司屋でもないのに何でカウンター席があるのん?」
目の前で忙しなく包丁を動かしていた男が顔を上げてヘンタイロスの方を向くと、にこやかな顔で答えた。
「この店は以前、寿司屋たったんですが、今どき寿司屋なんて流行りませんからね。イドラ島じゃあカウンター席がいいっていうお客さんも多いですから、そのまま残してあるんです」
そう言い、再び下を向いて包丁を動かし始めた男の頭をヘンタイロスは見た。料理人たちが被っている帽子は頭頂部が開いており、料理人によって長さが違う。親方らしき男が被っている帽子は恐ろしく長く、ヘンタイロスの質問に答えた男の帽子は親方の半分くらいで、若い男が被っている帽子は更に短い。おそらく料理人のランクによって長さが決まるのだろう。
ヘンタイロスが料理の美味そう匂いを嗅ぎながら、なぜ帽子の長さが違うのか考えていると、隣に座っているポコリーノが呟いた。
「お洒落だか駄洒落だか知らねえが、こういう店は尻の穴がムズムズして居心地が悪いぜ」
見ると、確かにポコリーノは心地悪そうな顔をしている。ポコリーノはレストランで高い料理を食べるより、居酒屋などで飲み食いするほうが性に合っているのかもしれない。
そんな事を考えているうちに、料理が運ばれて来た。
「お待たせ致しました。十六文ステーキでございます」
「ヘッヘッヘ! 待ってました!」
ポコリーノは肉にフォークを突き刺してステーキにかぶりついた。それを見ていたヘンタイロスとザーメインにもヒラメのムニエルが運ばれてくる。
ヘンタイロスは目の前に置かれたヒラメをジッと見た。盛り付けは綺麗に纏まっており、薄い緑地の器も品が良い。目で見る限り調理は完璧である。
ヒラメにナイフを入れようとした時、再び横からポコリーノの声が聞こえてきた。
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