第一話 Knife Edge 其の2
「あれ? お前、ベラマッチャたちと賭場へ行ったんじゃねえのか?」
「あッ! ポコリーノ!」
その声を聞き、ヘンタイロスの顔がパッと明るくなった。ヘンタイロスはポコリーノの元に走り寄り、大袈裟に喜びながら抱き付いてキスをした。
ポコリーノはあからさまに嫌な顔をしてヘンタイロスの抱擁から逃れようとするが、怪力のヘンタイロスから逃れる事ができない。仕方なくポコリーノは、抱き付かれたままヘンタイロスに尋ねた。
「おいヘンタイロス、いったいどうしたんだ? 凄え慌て様じゃあねえか」
ポコリーノの質問に、やっとヘンタイロスは抱き付くのを止め、真剣な表情でポコリーノの双眼を見つめ、早口で捲くし立てた。
「大変なのよん! ジャザーン卿ったら賭場で大負けしちゃって、とんでもない額の借金を作っちゃったのよん! おまけに『こんな大金払えん』って言って逃げちゃったから、ベラマッチャが捕まって借金の形に取られちゃったのよん! あぁ……今頃ベラマッチャは熟女相手に舐め犬をやらされてるんだわん」
捲くし立てるヘンタイロスの唾がシャワーの如く顔面に浴びせられ、話しを聞くより防御に忙しかったポコリーノだったが、ガクランの袖で顔に付いた唾を拭っているうちに、やっとヘンタイロスの話しが理解できた。
「なんだと? じゃあシャザーン卿は何処へ行ったか分からねえのか? ベラマッチャは奴の借金の形に働かされる事になっちまったんだろ?」
ヘンタイロスはカクカクと頭を縦に振りながら再び捲くし立てた。
「そうなのよん! 早くベラマッチャを身請けしなくちゃ! アンタ、幾ら持ってるのん!?」
ポコリーノはヘンタイロスに言われ、ズボンのポケットを探った。今日は不良グループの小競り合いがあり、かなりの額を稼いだ。金貨一枚で片方のグループの助っ人に行き、喧嘩の途中でもう片方のグループから金貨三枚で寝返ってくれと依頼され寝返ると、今度は最初に雇われたグループから金貨四枚で戻ってくれと言われる。そんな事が何度か続いて結局両方のグループ全員をブチのめし、金貨十七枚を手に入れたのだった。
ポコリーノは得意げに金貨を取り出し、両手の掌に金貨を乗せて喜色満面でヘンタイロスの前に差し出した。
「ヘッヘッヘ、これでベラマッチャを身請けすりゃあいいぜ! 余ったら酒でも呑みに行くか!」
得意げなポコリーノとは反対に、ヘンタイロスは項垂れ大きな溜息をついた。
ディスカッション
コメント一覧
これは食い詰めたヘンタイロスの狂言ですかね。