第七話 Head On A Pole 其の2
ベラマッチャはヅラスカヤの後姿を目で追いながら、死んだ筈の我が子を殺め、その子供を宿してしまった女の苦悩がどれほど深いものなのかを考えずにはいられない。おそらくヅラスカヤは、ベラマッチャがマワシから取り出したお守りを見た時から狂い初めていたのだろう。
ベラマッチャは、狂ったヅラスカヤがせめて安らかな最後を迎えられるよう、心の中で念仏を唱えてからカツラスキーを睨みつけた。
「君のアシスタントは哀れにも狂ってしまった。王宮は彼女に労災保険を支給してくれるのかね?」
「死して屍、拾う者なし……それがエージェントの掟だ。ヅラスカヤの労災については私が申請しておく。貴様等が心配する事ではない。表へ出ろ!」
黒い燕尾服にシルクハット姿のカツラスキーは、怒りに満ちた表情でそう言うと、細身の身体をゆっくり動かし、先程自身が顔を出していた壁を通り抜けて外へ出た。
ベラマッチャたちも顔を見合わせながら険しい表情で後に続いて外へ出ると、そこには驚愕の風景が広がっていた!
なんと建物の横には大きな穴が五つ掘られていたのである! 長方形の穴の長さは人間の背丈ほどで、腰くらいまでの深さがある。それぞれの穴の前には大量の土が盛られ、ベラマッチャたちの名前が書いてある卒塔婆が挿してあるのだ!
「こッ、これは一体……」
「俺たちの墓穴って訳か……」
絶句しながら墓穴を見るベラマッチャたちの耳に、カツラスキーの声が響いた。
「ここが貴様等の死に場所だ。ヅラスカヤの仇、取らせて貰うぞ!」
ハッとしてカツラスキーを見ると、カツラスキーはシルクハットを投げ捨て、両腕を身体の前で交差させた。次の瞬間、カツラスキーが両腕を上に挙げると、室内に飾ってあった大量の魔ヅラがフワフワと浮かびながら外へ出てきたのだ!
「げぇッ!」
まるで意思を持っているかのようにカツラスキーの周りを飛び交う魔ヅラに、ベラマッチャたちが驚きの声をあげると、カツラスキーはニヤリと唇を歪めた。
「――魔術が発達し、死者すら蘇らせる事が出来るようになった現代でも、魔術では直せない病がある。多くの男が患う不治の病、治療方法が無いのは誰でも知っている。その病の名はハゲ……」
「むぅッ!」
カツラスキーの自信が篭った挑発的な言葉を聞き、ベラマッチャは背筋に冷たいものを感じて尻の穴に力を込めた。
ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません