第二話 Big Women 其の6
ベラマッチャは女から離れると、再び鞭を手に取って女を叩いた。身体に走る衝撃に目を覚ました女はゆっくりと起き上がり、仁王立ちのベラマッチャの前に跪くと、自身の淫水塗れのベラマッチャの摩羅を手に取り、顔を上げてベラマッチャの目を見つめる。ベラマッチャは顎で女に指図し、己の摩羅を口で掃除させながら、プレイが終了した事を告げた。
「プレイは終わった。夢の世界から現実へ戻る時が来たのだ」
女は名残惜しそうにベラマッチャの摩羅を数回扱くと無言でベラマッチャから離れ、服を着始めた。ベラマッチャもマワシを着け、着替え終わった女の手を取り部屋を出て待合室へ向かう。無言で薄暗い廊下を歩いていると、女の肩ほどしか背丈が無いベラマッチャの頭を女がソッと撫でてきた。女にされるがまま、待合室へ行くと店主の姿が見える。痩せて背の低い女に頭を下げ、店主の横にいる恐ろしく背の高い男が女を抱きかかえてベラマッチャたちと擦れ違い、個室の方へ向かって行く。
(どこかで見た顔をしとる……)
ベラマッチャは振り返り、擦れ違った大男を目で追うと店主の声が聞こえてきた。
「プレイは如何でございましたでしょうか?」
頭から女の腕が離れたのでベラマッチャが前を見ると、店主が頭を下げながらベラマッチャとプレイをした太った女を出迎えている。
「この人、凄く良かったわ! あんなプレイで悶絶したのは初めてよ! 名前も聞いてなかったけど、今度指名で入りたいから名前を教えて!」
店主は少し戸惑った表情でチラリとベラマッチャを見ると、再び笑みを浮かべながら女の方を向いた。
「この者は入店したばかりなので、まだ源氏名を決めておりません。次回ご来店されるまでに源氏名を決めておきましょう。アフロヘアの男はこの者しかおりませんので、次回ご氏名の時には『アフロの男』とご指名ください」
女は店主の言葉に頷くと、屈んで横にいたベラマッチャに抱き付きキスをした。スッキリとした表情で店を出て行く女を店主と共に頭を下げて見送ると、人のいなくなった待合室に店主の声が響いた。
「俺の思ったとおりだ……。スモウと同じで、舐め犬にベビーフェイスとヒールあり。ベビーフェイスは甘いマスクや超絶の寝技で女を虜にするが、ヒールとはマニアックなプレイで特異な性癖の女を虜にする。お前はヒールとして売り出す事にする。まさかデビュー戦で客を悶絶させるとは思ってなかったぜぇ。お前、名前は?」
「むぅ、僕の名はアンソニー・ベラマッチャだ」
ポカンと口を開けて答えるベラマッチャに店主はニヤリと笑い、言葉を続ける。
「お前はヒールになるんだ。その間抜けヅラも怖くしなきゃならねえ。ちょっと怒った顔をしてみろ」
ベビーフェイスのスモウレスラーとして修行を積んできたベラマッチャには、店主の言葉は想像の遥か彼方の言葉である。店主に抗議しようとしたが、売り出してもらえれば当面の間、死を間近に感じる事はないだろう。ベラマッチャは店主の言葉に従い、怖い顔を作ってみせた。だが店主は首を振り、ベラマッチャにもっと怖い顔をするよう言ってくる。再び怖い顔を作ったベラマッチャに、店主から大声が飛んできた!
「もっと怒れッ! 怖い顔をしろッ! アンソニー・ベラマッチャなんてフザけた名前はやめちまえッ! よーしッ! 今日からお前は『アブドーラ・ザ・ベラマッチャー』だッ!」
店主は叫びながらベラマッチャの源氏名を決めると、怖い顔をしたままのベラマッチャを見ながら大声をあげて笑った。
「ハッハッハ! 舐め犬店ドッグファイトへようこそ! 黒い呪術師アブドーラ・ザ・ベラマッチャーよ!」
スモウでは生涯使い続けねばならない四股名ともいえる源氏名を、ベラマッチャは風俗店で決められてしまったのだった。
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