ロックンロール・ライダー:第二十八話
曇り空の下、人もまばらな朝の街を駅を目指して歩いていく。
日曜日のため電車の中も閑散としていて、新宿駅での乗り換えにも苦労せず、目黒まで楽に到着した。
朝飯を食ってないため、途中でコンビニに寄りパンを買って悲鳴館へ行くと、朝だというのに人の姿が見える。
どこかのバンドの奴か、それともワナビーズなのか分からないが、ビジュアル系の格好をした連中が店の前に集まっており、その中に見覚えのある女を見つけて思わず声を上げた。
「ミーちゃん!」
手を振って近づいていくと、全員が俺の方を見た。
「ジェイ!」
ミーちゃんが俺に気づいて手を振りながら走り寄ってくると、周りにいた男たちもゾロゾロ歩いてきて口々に言葉を発した。
「ミー、また頼むぜ」
「チャッピーたちも、また手に入れてきてくれって言ってたからよ」
「ゴメスの奴、お前をツアーに連れて行きたいってさ」
長髪をピンク色に染めた男がミーちゃんの肩に手を置き、耳元でなにか囁いてから離れると他の男たちも後を追う。
一歩離れたところから見ていた俺が、なにを言ったのかミーちゃんに尋ねると、彼女は嬉しそうな顔で俺を見上げた。
「ボーカルのカマチョがあたしに会いたいんだって!」
「カマチョ?」
たしか、ミーちゃんが追っかけてるゴールデン・パンチってバンドの奴だ。
ボーカルがカマチョ、ギターがチャッピーとハゲチャノフ、ベースがバカーチンでドラムがゴメス。五人組のド派手なバンドで、厚化粧で顔を作っている感じの奴等だった。
でも、さっきの連中じゃないはずだけど、メンバーの名前を言ってたってことはバンドの関係者なんだろうか。
「あいつら、ゴールデン・パンチの連中?」
「ローディーだよ。ゴールデン・パンチに会わせてくれるって言うから、いつもスピード分けてやったりヤラせたりしてるんだ!」
ミーちゃんの言葉に俺は呆れ、顎が地面に着くんじゃないかってくらい大口を開けた。
どう考えてもヤクを手に入れたりセックスしたりの、手軽で便利な女として使われてるんだろう。おそらく会わせてやると言われても、いまだメンバーとは会ってないに違いない。
もっとも、俺と初めて会ったときも十分後にはセックスするか尋ねてきたくらいだ。
「いつ会えるんだろう? ツアーに付いて行ってカマチョとベタついてるの、他の追っかけに見せつけてやらなきゃ!」
はしゃいでるミーちゃんを見ていると、なんだか全てがどうでもよくなってくる気がするが、俺が悲鳴館に来たのはバンドのメンバーを探すためだ。
浮かれてるミーちゃんを横目に、俺はライブハウス入り口横の掲示板へ向かった。
メンバー募集の張り紙を見るものの、バンドがギターやドラムを探してるものばかりでバンドを探してるヤツの張り紙はない。
残念だが、自分たちでライブハウスや楽器店に募集告知を出すしかないだろう。
ガッカリして、メンバー募集をどこで告知しようか考えながらミーちゃんの元へ戻ると、ミーちゃんが俺の腕を引っ張りながら歩きはじめた。
「ジェイ! 気分がいいからヤろうよ!」
ゴールデン・パンチのメンバーに会えるかもしれない嬉しさからかミーちゃんは明らかにハイになっており、人が行き交う路上であるにもかかわらず大声を上げた。
さすがに恥ずかしくなり、彼女の腕を掴んで悲鳴館の入り口まで連れていく。
「ミーちゃん、落ち着けよ」
「一発ヤれば落ち着くって!」
そう言って、またミーちゃんは俺の腕を引っ張りながら、先日入ったラブホテルの方へ歩きはじめた。
日曜日の午前中、ラブホテルから出ていく男女はいるものの入っていく奴はいない。こんな時間からセックスなんて普通しないだろうから当然なんだが。
カウンターで部屋を決めて金を払うと、受付のオヤジが「スキだね」とでも言いたげな下卑た笑みを浮かべてニヤけている。
鍵を受け取って部屋に行き、ミーちゃんがソファーに座ってバッグからスピードを取り出すのを横目で見ながら、シャワーを浴びることにした。
昨夜は先輩の家に泊まり、バンド結成の話で盛り上がったためシャワーも浴びてない。本当なら風呂に入って疲れを癒したいところなんだが、ミーちゃんの期待に応えなければならない。
就職して毎日夜遅くまで働いていると、本当に体力に自信があるのか心配になってくるほど疲れが溜まる。
バスルームに入り、蛇口を捻って熱い湯を頭から浴びていると、凝り固まった体が解れていくのとは逆に股間に力が入りそうな感じがする。これから何をするのか分かってるし、疲れマラってやつなのか?
仕事が終わって家に帰ってもすぐ寝てしまう毎日、当然だが忙しくてセックスどころかオナニーもしてない。
そんなことを考えながらバスルームを出て体を拭き、裸のまま歩いていって服を脱ぎ散らかしベッドの上で大の字になっているミーちゃんの横に寝転んだ。
意味不明なことをブツブツ呟くミーちゃんの乳房をそっと揉むと、彼女は俺に抱きつき自分の体の上に導く。
我慢できなくなりキスすると彼女が俺の口の中に舌を入れてきた。
(もう我慢できねえ……)
ミーちゃんから口を離し、体を弄りながら両脚を開いて顔を埋めると女の匂いが鼻に充満する。
しばらく女の中心を舐め回していると、すぐに分身が限界近くなってきた。
顔を離して枕元にある安全装置を付け、ミーちゃんに覆い被さり彼女の中に分身を送り込む。
「あぁ~っ!」
大声をあげ激しく腰を揺らすミーちゃんに合わせ、俺も動きはじめる。
溜まっているせいなのか久しぶりの女の体への興奮からか、相手のことなど構わず一気に煩悩を放出してミーちゃんの体を抱きしめた。
いまだ力漲る我が分身を抜き、「バチン!」という音を立たせて無理やり安全装置を外し、新しいのと交換してから再び熱く潤う場所へ挿入する。
クネクネ動くミーちゃんの腰の動きに会わせて律動し、何度目かの彼女の絶頂に合わせ残りの煩悩を吐き出した。
「ふぅ……」
激しく動く心臓を静めるように小さく息をつき、力を失くしてミーちゃんの体から押し出された分身に被る安全装置を外す。
安全装置を縛って枕元にあるティッシュで包み、ゴミ箱に放り込んで体を痙攣させているミーちゃんの横に仰向けになった。
激しい運動をした後のように怠くなった身を休ませ、片手で彼女の乳房に触れると体をビクンとさせる。
その体勢のまま動かずにいると、ミーちゃんの手が小さくなった俺の分身を握ってきたので、顔を向けて話しかけた。
「今度バンドを結成することになったんだ。まだ俺と先輩の二人だけだから、ドラムとボーカル探してる」
「先輩?」
「会社の先輩でベースが弾ける。さっき話してたローディーの奴等、パンクバンドやる気ないかな?」
「あいつら、ビジュアル系バンドしか興味ないよ。どいつも不細工だからバンド組んでも売れないと思うけどさ」
「そっか……」
天井を見つめながらメンバーを集めることを考えていたが、彼女が手遊びするように俺の分身を弄り続けているため再び力が漲りはじめる。
備え付けの安全装置は使い果たしてしまった。これまでのように体内に発射してしまうという危険は避け、複数の女と安全で楽しいスポーツライクなセックスライフを送るのが俺の理想だ。
だが、怒張した分身を静めるためには煩悩を吐き出すしかない。
どうするか迷ったが、ミーちゃんの頭に手を添え下半身に誘導し、分身を咥えさせフィニッシュすることにした。
分身を口に含みながら、ミーちゃんは体勢を入れ替えて自分の股間を俺の顔の上に乗せてくる。
俺が彼女の敏感な突起を舐めていると突然ミーちゃんが起き上がり、俺の上に跨り分身を体の中に入れて腰を振りはじめた。
絶叫しながら腰を振るミーちゃんに面食らいつつも、安全装置を付けてない不安が頭を過ぎる。
しかし、そんなことなど気にも掛けてなさそうな彼女に俺も煩悩を吐き出すことだけに集中して腰を振り、白目を剥いて体を痙攣させながら覆い被さってきたミーちゃんの中に発射した。
涎を垂らしながら呼吸を荒げるミーちゃんを抱きしめていると、彼女が俺から離れて恍惚とした表情のまま体を痙攣させている。
ベッドから起き上がり、彼女の液体でベトベトになった口元を右手で拭いながらバスルームへ向かう。
シャワーを浴びて戻ると、ミーちゃんが入れ替わりにバスルームへと歩いていった。
服を着て煙草を吸っていると、シャワーを浴びて裸のまま出てきたミーちゃんが下着を付けはじめた。
「あたしたち、やっぱり体の相性がバツグンだね。すごく気持ち良かった」
「俺も良かったよ。何日もヤッてなかったからね」
「やだ、ヤりたかったら悲鳴館に来てよ。ジェイだったらいつでもいいからさ」
「バンドのメンバーも見つけなきゃだし、近々また来るよ」
「バンド結成したら練習してるところ見せて。楽しみにしてる」
雑談しながらラブホテルを出て別れたが、歩きながらも俺の頭の中はバンドのメンバーをどうするかで一杯だ。
最悪ドラムを入れてスリーピース、だけどボーカルまでやりたくない。歌なんか下手でいいから、何曲も叫べる奴が欲しい。来週は下北沢の軒下や渋谷にも足を運んでみよう。
そう考えながら改札を抜け、ホームに滑り込んできた列車に乗り込んだ。
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