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第4回ツギクル小説大賞で、当サイトの作品「夢幻の旅」が奨励賞を受賞しました。
管理人:Inazuma Ramone

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Boys be Sid Vicious

雑記帳:読むな! 呪われるぞッ!

 前年にSST時代の『Zen Arcade』に続く2枚組の大作『Warehouse:Songs and Stories』をメジャーレーベルのワーナー・ブラザース・レコードからリリースしたHusker-Duが、1988年に解散。ハスカー・キッズであった俺は嘆き悲しみ、どん底まで落ち込んで日々過ごしていた。

 社長からいちばん下の俺まで総勢十一人の小さな会社に就職し、プログラマーとして働いていたのだが、三つ年上の先輩に俺と同じくパンクスの板野先輩がいた。

『The StarClub』という愛知のパンクバンドのファンで、俺もStarClubを聞いてたこともあり、二人で新宿ロフトを始めライブへ行くような間柄になったのだ。

 ところがこの板野先輩、生まれついての負け犬とでも言おうか、典型的な「何をやってもダメ」な人なのである。

 ドジで飽きっぽく空気を読まない人。

 先輩の仕事のミスを俺がフォローするという完全に迷惑な人なのだが、なぜか憎めなかった。いま思えば、俺も板野先輩と同質の人間だからかもしれないが。

『原爆オナニーズ』という、これまた愛知のパンクバンドのライブを見に行った日の夜、柴又に住んでいた俺は終電を逃してしまい、高円寺にある板野先輩のアパートに泊めてもらうことになった。

 コンビニでビールとつまみを買いアパートへ行き、当時バンドブームの火付け役となったテレビ番組、『三宅裕司のいかすバンド天国(イカ天)』を見ながら酒を飲んでると、先輩からバンドを結成しないかと提案された。

「いいっスね! やりましょうよ! で、どんな音のバンドやるんスか?」

「おまえハスカー・ドゥ好きだろ? いま考えてるのは、ディスチャージとモーターヘッドとハスカー・ドゥを足して三で割ったようなハードコアパンクバンドだ」

「それ凄いバンドになりますよ!」

 俺と板野先輩は酒を飲みながら、こんな音でこんな曲を作ろうと朝までバンドについて語り合い、シド・ヴィシャスが好きな先輩がベース、ギターを質屋に入れて楽器を持ってなかった俺がボーカルと決まり、ギターとドラムを探すことになった。

 月曜日、出向先で仲良くしてた薮田さんが、高校時代に吹奏楽部でドラムを叩いてたことを知り板野先輩に連絡。薮田さんをバンドに誘ってみると、二つ返事で承諾してくれた。

 ブルース・リーのファンで無口な人だったので、パンクバンドに参加するなんて少々以外であったが。

 ギターは同じ会社の新井先輩。プログレが好きな先輩だけどなんとかなるだろう。

 メンバーも決まり、高円寺にある板野先輩のアパートに集まってバンドのコンセプトについて話し合う。

 俺がバンドについて説明するも薮田さんはボーっとしてるし、新井先輩は俺には難しすぎて分からない発言を連発。

(――大丈夫なのか? このバンドは……)

 Poison Ideaをちょっとメロディアスにしたようなバンドを夢想してた俺の頭をかなりの不安が過ぎったその時、板野先輩が発言した。

「とにかく来週、スタジオで音を出してみよう。みんなエルヴィスは分かるだろ? 練習で何曲かやってみようぜ。みんながどれくらい出来るのか、俺がスタジオでみるから心配しないでくれ」

 とりあえず来週、スタジオに集合して板野先輩がメンバーのレベルをチェックするという。仕事では迷惑な先輩が頼もしく見える。

 だが……。

 板野先輩が曲を作ってきたというので聞かせてもらうと、モロに亜無亜危異(アナーキー)のパクリ。しかも「あぶらむし」って曲に対抗して「みずむし」って……。なんで対抗するんだ? コミックソングかよ……?

 楽器を弾けば一番ダメなのが板野先輩で、ベースの音階すら理解してない。それなのに薮田さんやテクニシャンの新井先輩に指導したり、ロックンロールについて語ったりする始末。

「テキトーにイジってりゃギターなんか弾けますよ。ベースなんてギターより簡単ですよ? 弦が四本しか無いんだから。ギター弾けないなら代わりましょうか?」

「薮田はスネアを速く叩け。オカズ要らねーからよ」

 そして俺には、音楽とはまったく関係ないアドバイスをしてきたのだ!

「ボーカルはMCでウケるように面白いことを考えろ。俺たちはスタークラブみたいなパンクバンドなんだからよぅ」

 ――それじゃあドリフターズだろうが……それにバンドのコンセプトは、ディスチャージとモーターヘッドとハスカー・ドゥを足して三で割ったようなハードコアパンクじゃねえのか……。

 怒りを通り越して呆れ果て、板野先輩以外のメンバーは練習初日で嫌気が差してしまい、それでも先輩に付き合いバンドを続けて一ヶ月たった頃、突然板野先輩が「ニューヨークへ行く」と言って退職した。

 残された三人で、俺たちがバンドが嫌になったのを悟り傷付いたのではないかと話し、心配したものだ。

 ――ところが。

「せっ、先輩……ナニやってんスか……?」

 亀有で買い物をしてた俺の目の前に、ラモーンズみたいなバンドをやるためニューヨークへ旅立ったはずの板野先輩が突如として現れた。

 聞けばパスポートなんか持ってなく、なんとかしてニューヨークへ行こうとしたが、金が無くなりスナックの雇われマスターをしてるとのことだった。しかも年上のママと良い仲になって……。

 先輩の店で酒を奢ってもらいアパートへ帰る途中、ママとベタついてニヤけてる先輩の顔を思い出しながら、こんな愛すべきバカがいてもいい、そう思った。

 シド・ヴィシャスが好きで何をやってもダメ、人生すら思い付きで進んでしまう。利口に立ち回り得する事ばかり考えず、板野先輩を見習おう。先輩みたいなバカになっていいんだ。

 そしてロックンロールは、俺や板野先輩のように何をやってもダメな負け犬のためにある。

 Boys be Sid Vicious

 世知辛い世間で小賢しく窮屈に生きるより、バカになれ、楽になれ、太く短く人生を楽しんでいこう。

 いま、先輩は何をしてるんだろう……。

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