【ライナーノーツ】back numberと私

雑記帳:読むな! 呪われるぞッ!

※嫁に「工事現場の騒音みたいなのばかり聴いてないで、これを聴いてみろ」とCDを渡されたので、忘れて夫婦喧嘩にならないよう記しておく。

「革のパンツにブーツ、ありきたりなヘヴィメタルの格好は嫌だったんだ。ラモーンズを見てみろよって感じでね」

 かつて、ニューヨークのスラッシュメタルバンド、アンスラックスは、インタビューでパンクロックへのシンパシーを口にした。そして、そのアンスラックスが影響を受けたというラモーンズのジョーイ・ラモーンは、ロックバンドに必要なのはエナジーとアティチュードであることを公言して憚らなかった。

 パンクやハードコアというと、80年代の日本では、パンクバンドを積極的に紹介していたDOLL誌あたりでもイギリスのバント一辺倒で紹介されており、アメリカのバンドではラモーンズ、デッドボーイズ、ハートブレイカーズ、イギリス経由でデッドケネディーズやミスフィッツ、クランプスくらいしか情報が入ってこなかった時代である。

 当然、パンクという触れ込みのレコードを輸入していた輸入盤屋などでもイギリスのパンクバンドしか売れず、フリッパーやクライム、ハスカー・ドゥ、ブラック・フラッグ、アンデッド、マーフィーズ・ロウ、ソーシャル・ディストーション、エージェントオレンジ、ミドルクラス、チャンネル3、ビッグ・ブラックなど、後に伝説扱いされるアメリカのパンクバンドですら「EP3枚100円」などという捨てられたような値段でワゴンセールされていた。

 金がなかった当時の筆者は、そんなバンドたちを輸入盤屋で買い漁って繰り返し聴いたものだ。

 当然アマゾンなどもなく、レコードジャケットに印刷されたレーベル名と住所を頼りに銀行でドルやポンドに両替し、X線検査でバレて没収されないように金をアルミホイルで包み、レコードタイトルを書いた紙と共に封筒に入れてエアメールで送り直接買ったこともある。

 某バンドのメンバーなど、英語が分からず「You are great.The 〇〇〇〇〇 is good band.」とだけ書いた手紙に長文の返信をくれた。

 字が汚く、何が書いてあるか分からなかったので、高校の英語の先生に訳してもらったのだが、先生は筆者が英語に興味が出たと喜んだ。

「おっ! イナヅマ、ペンパルがいるのか! 偉いぞ!」

 だが、訳してもらうと、〇〇〇ーが弟をギタリストにしてバンドをコントロールしたかったなど、彼が以前所属していた〇〇〇〇〇〇の悪口ばかり。

 最後に少しだけ、日本にもファンがいることへの感謝の言葉が書かれてたが、英語の先生は「誤字脱字がひどいね」と彼の手紙に辟易していた。

 しかし、この手紙が偉かったのは、筆者が英語に興味を持ったと先生に勘違いさせたところにある。筆者はこの手紙で赤点を免れ、英語の単位をもらえたのだ。

 そんなことをしてレコードを買ってたのだが、そんなバンドの中にポートランドのポイズン・アイデアがいる。

 パンクシーンだけでなくメタルシーンにも影響力を持っていたが、中心メンバーが揃って関取クラスのデブという外見だけで、音も聴かずに「クソバンド」扱いされるほど、当時の日本のパンクシーンは偏ってたように思う。

 ハンパじゃないヴォリュームの肉体から叩き出される音を聴けば、メチャクチャなスピードと炸裂するパワー、エナジー全開のパンクロックなのにである。

 真夜中の高円寺で、トロージャンのパンクスが酔いつぶれたサラリーマンの財布から金を盗んでいるのを見たときのようなザワザワする感覚。

 ハスカー・ドゥが解散して悲嘆していた筆者は、ポイズン・アイデアを知り狂喜した。

 ニヒリズムを前面に出し、歌詞からは筆者の好きなアメリカの飲んだくれ詩人、チャールズ・ブコウスキーの影響が強く感じられる。

 ベヴィーメタル一歩手前の重厚な音だが中身はパンク。筆者はポイズン・アイデアに、モーターヘッドがラモーンズを演奏するような、ハードコアのひとつの完成形を見たのだ。

 ジョーイ・ラモーンが言うところの、「ロックバンドに必要なのはエナジーとアティチュード」を地でいくバンドだったのだが、邦盤が発売されたのは4枚目のアルバム「BLANK BLACKOUT VACANT」からで、これも「売れないものは発売しない」というメジャーレーベルの体質を表しているのだろう。

 そして、そんなメジャーレーベルで活動するバンド、back numberである。

 このCDを聴く前、正直言って筆者は彼らのことを知らなかった。だが、音が出た瞬間に広がる懐かしさすら感じるエモーション、彼らの故郷である群馬の、それも幼いころから慣れ親しんだ文化や、子供のころに口ずさんだ唱歌や童謡などの影響が感じられる。日本人の心の琴線に触れる極上のポップミュージックがぎっしり詰まっているのだ。

 back numberが好きなあなた。あなたのポップセンスに自信を持ちましょう。あなたのポップセンスは正しいです。

 筆者はこのアルバムを聴き、ロックに対する感覚が360度変わった。このアルバムを繰り返し聴いて血肉に染み込ませれば、きっとあなたにも何かが見えてくるはずだ。

【Inazuma Ramone】