夢幻の旅:第十八話
一階に降り、玄関を出て庭の奥にある犬小屋が目に入った途端、昨夜からジョニーに餌を与えてないことに気づき、慌てて容器を持ってドッグフードストッカーへ小走りに駆けていく。
容器いっぱいにドッグフードを取り出し、ジョニーの元へ行き小さく声を掛けた。
「ごめんな、ジョニー」
クゥ~ン、クゥ~ンと鳴くジョニーに餌を与えると、ジョニーは勢いよく食べはじめる。庭にある散水用の水道で水を汲んで、ドッグフードを入れた容器の隣に置いた。
そういえば、ジョニーを散歩にも連れてってない。これじゃあジョニーがかわいそうだ。餌を食べ終わるまで待って、コンビニに行きがてら散歩に連れて行こう。
尻尾を振りながらドッグフードを食べるジョニーを見つめ、楽しかった日々の生活を思い出す。良美と出会った日のこと、結婚式の日、そして夫婦喧嘩をした翌日、どちらからともなく会話を始め、お互い謝った日のこと……。
モヤモヤした心の中で思い出を再生しながら漠然とジョニーを眺めていると、ジョニーはあっという間にドッグフードを食べ終え、容器いっぱいの水を飲み干した。
「行くか、ジョニー」
ジョニーの首輪に散歩用のリードを付けて右手に持ち、家の近くを流れる川へ向かった。久しぶりに川沿いを歩いて、遠回りで丘の上にある公園へ行こう。
橋の袂から川の土手に入ると心地よい風が吹きつけてくる。全身で風を感じながら土手の上の道を進みはじめると、普段と違いジョニーが俺の右側にぴったりくっついて歩いていく。
いつもなら俺を引っ張るようにして少し前を歩くのに、今日のジョニーはおとなしい。餌を食べているときから違う感じがしたが、たぶんジョニーも、家の様子が変わったことに気づいてるんだろう。狼の血が入った利口な犬だ。俺の感じが違うのを察し、近くにいるようにしてるに違いない。
川沿いを三十分ほど歩いて丘の上に到着すると、公園内に作られたドッグランへ行き、柵の中にジョニーを放した。
ドッグランには、ジョニーと仲の良いシベリアンハスキーやシェパード、ボルゾイなどの大型犬が連れられて来ており、それらの犬の見知った飼い主たちに挨拶して、一人離れたベンチに腰を下ろした。
今は人と話す気分じゃない。ドッグランで走り回る犬たちを見つめながら、溜息をいたり背伸びをしたりしてみる。気分転換できるわけじゃないが、モゾモゾとでも体を動かしてないと叫んでしまいそうになるのだ。
何時間くらい公園にいたか分からないが、日が傾くにつれて一人、二人と帰っていき、いつの間にかドッグランにいるのは俺とジョニーだけになっている。
西に聳える山の向こうに落ちていく夕陽を見ながら、柵の中に入ってジョニーの首輪にリードを付け、コンビニに寄って帰ることにした。
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