夢幻の旅:第四話
風呂から出た後、スマホはダイニングテーブルの上に置いたままだったし、当然パソコンも使ってない。それに、自分で自分のメールアドレスに空メールを送信する理由などないだろう。
左手に持ったスマホを見つめてるうち、なんだか薄気味悪くなってきて即座に受信メールを削除し、再びダイニングの椅子に座ると良美が話しかけてきた。
「ねえ、今のなんだったの?」
「分からないよ。灯りが消えたのはうちだけだったみたいだし、ブレーカーが落ちたなら勝手に電気が点くはずがないんだけどな。もしかしたら、配線のどこかに異常があるのかもしれない」
「やだ、あと六年で家のローンが完済するのに、いま火事になったら困るわ」
「そうだな。業者を呼んで点検してもらおう。明日の休憩時間にでも中村電機に電話してみるよ」
家を建てたときから付き合いがある電気屋に相談してみると言って、俺はダイニングテーブルの上のスマホを持ち、寝室へと向かった。
停電といい自分が送信したことになってる空メールといい、今日は不思議な出来事が立て続けに起こり、ダイニングどころかリビングに行く気にもならない。寝るまでの間、ベッドで読みかけの本でも読んでいよう。
二階の自室から読みかけの小説を持ってきて寝室に入り、ベッドに寝転んで読みはじめるものの、さっきの空メールが頭から離れない。なぜ自分宛にメールを送信してるのかが気になり、枕元に置いたスマホの送信履歴を調べてみた。
数年前からLINEを使うようになり、家族や友達とはLINEでやり取りしている。歳をとった実家のお袋ですら、スマホにLINEアプリを入れているのだ。
モヤモヤした納得できない気分のまま、今では使うことが少なくなったメールの送信済みフォルダを開くと、最後に送信したのは先月、店舗宛に連絡し忘れことを伝えるために送信したメールで、さっきの空メールは送信されてなかった。
(スマホも古くなったし、故障しそうなのかなぁ……)
釈然としないまま枕元にスマホを置き、小説を読みはじめた。このところ仕事が忙しかったし、蛍にも気を取られてたから疲れてるに違いない。それに、照明が消えたのとスマホの不調が同時なんて、偶然に決まってる。
気を取り直して小説を読みはじめるものの、まったく頭に入らない。仕方なく本を置き、灯りを消して寝ることにした。
今日は蛍と会って話をした。あの娘と初めて会った日から、恋をしている若者かのように毎日が充実している。気力が漲り、飽きてきている仕事すら楽しい。このままの状態が続くとも思えないが、少なくとも蛍と会っている間は充実した生活を送れそうだ。
でも、なんで蛍は俺のことを知ってるかのように話しかけてきたんだろう。あの娘が俺と会う理由は何だ?
目を瞑り、いろんなことを考えるものの、最後に思うことはひとつだった。
次に蛍と会えるのはいつだろうか……。
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