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第4回ツギクル小説大賞で、当サイトの作品、夢幻の旅が奨励賞を受賞しました。
管理人:Inazuma Ramone

夢幻の旅:第五話

創作長編小説

 翌朝、目を覚ましてダイニングへ向うと、良美が作る朝食の匂いが漂ってくる。

「おはよう」

「おはよう。あなた、新聞取ってきて。いま手が離せないの」

 良美に言われ、門のところまで新聞を取りにいき、ダイニングに戻って読みはじめた。

 ローカル誌の埼玉新聞でも一面はアメリカ大統領と総理大臣の会談、記事を斜読みして経済面を開き、地元の経済情報を見る。埼玉北西部の外れにある我が故郷の、アイス工場の操業状態に関する記事を読んでから地方面を開いた。

 秩父の聞いたこともない祭りの記事や学校行事のことなど、近隣地域のローカルネタを拾いながら仕事に生かせる情報を探していく。

 上毛新聞や下野新聞のように、県内で全国紙を上回る発行部数を誇る新聞ではないが、俺が埼玉新聞を読むのは地元ネタを拾って仕事に生かしているのと、なんといっても高校野球埼玉大会の結果を見るのが楽しみだからだ。

 母校に野球部がなかった俺は、夏の地方予選では地元の高校と県内の公立高校を応援している。

 日本中から野球留学してくる生徒が活躍する私立高校が勝っても嬉しくないし、そんな強豪校に立ち向かう地元の子供たちを応援するのが俺の夏場の楽しみだった。

(そういえば良美が龍勢祭に行ってみたいって言ってたなぁ……)

 秩父で行われる祭りの記事を読みながら、ふとそんなことを思い出した。

 龍勢祭は、日本武尊が東征の折創建したという秩父にある椋(むく)神社の神事で、地元の人たちが作った手作りロケットを飛ばす、毎年秋に行われる祭りだ。

 天正三年には既に祭が行われていたとの記録があり、日本武尊に由来するなんて説もあるらしい。打ち上がる様子が龍の昇天の姿に似ていることから「龍勢」と呼ばれている。

 俺は新聞を畳み、良美に声をかけた。

「なあ、龍勢祭を見たいって言ってたろ? 今年の秋、行ってみようか」

「あら珍しい。連れていってくれるの?」

 良美は朝食を運んできながら驚いたような声を出した。

「前から行ってみようと思ってたし、椋神社にもお参りしてこようよ。猿田彦命と武甕槌命(タケミカヅチノミコト)、経津主命(フツヌシノミコト)が祀られてる神社は近所にないから」

「龍勢祭、十月だったわよね。今年は何日にやるのか調べて、後でカレンダーに書いといてよ」

 祭の話をしながら良美が作ったホットサンドを食べ、スープを飲み干して出勤するための支度にかかった。

 身支度を整え、ネクタイを締めて店の鍵を持ちリビングに降りていくと、テーブルの上に弁当が入ったバッグが置いてある。

「行ってきます」

 バッグを手に良美に声をかけると、キッチンで洗い物をしていた良美が顔を出した。

「行ってらっしゃい。気をつけてね」

 玄関を出て車に乗り込み、俺は職場へ向かった。

 渋滞する国道を通って山道に入り、峠を越えると隣町に出る。交差点を左へ曲がり、次の交差点を右折、その先の信号を右に曲がって真っすぐ進んだ先の右側に、俺が働く書店がある。

 駐車場に車を停めて、まだ誰も出勤してない暗い店内に入って照明を点け、事務所に入りタイムカードを打刻した。

 弁当を冷蔵庫に入れて荷物をロッカーにしまい、エプロンを着て売り場に出て荷物を見ると、今日は女性誌発売日で雑誌が多い。それに売り場のフェアを切り替えるために発注した商品が入荷したらしく、補充分の書籍の量も多めだった。

 各担当部門ごとに荷物を仕分けながら入荷数量を確認し、レジを立ち上げて釣銭準備金を用意してから大量に入荷してきた雑誌の梱包を解き、付録付き雑誌だけ分けていく。

(今日は女性誌の発売日だ。蛍は買いにくるかな……)

 付録が付かない雑誌をジャンルごとに分けてカートに置きながら、俺は蛍が買い物にくることを期待していた。

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