夢幻の旅:第三話

創作長編小説

 二十秒ほどで勢いよくお湯から頭を出し、体が温まったところで風呂を出てダイニングへ向かうと食欲をそそる匂いが漂ってくる。

 キッチンにある冷蔵庫を開けて缶ビールを一本取り出し、ダイニングテーブルにスマホを置いて椅子に座り、テレビを点けた。

 芸人が喋るバラエティ番組だったのでチャンネルを変えるものの、どの局も同じようなバラエティ番組ばかりで見る気が起きない。テレビを消し、缶ビールを飲んでゴクリと喉を鳴らす。

 若者のテレビ離れが進んでると言われて久しいが、テレビを見なくなったのは我々おじさん世代も同じである。どの番組も同じ芸能人ばかり出てるし内容も変わり映えしない。これじゃあ、関東近郊ばかり行ってる旅番組やローカル路線バスの旅の視聴率が高い訳だ。

 そんなことを考えてるうちに、良美が料理を運んできた。

「おっ! ホイコーローかぁ。美味そうな匂いだと思った」

「実家へ行ったらお母さんにキャベツをたくさんもらったの。ホイコーロー食べたいって言ってたでしょ」

「お義母さんの家で作ったキャベツ?」

「そうみたい。今年はどこの農家も春キャベツが豊作なんだって」

 良美と話しながら晩飯を食べる、ホッとするひと時。疲れが癒されるのは睡眠や入浴ではなく、この時間なのかもしれない。

 結婚してすぐ、良美の腹部に激痛が走り病院へ連れて行くと、診断結果は卵巣嚢腫。卵巣が茎捻転を起こして壊死しはじめているとのことで、卵巣の摘出手術を行わざるを得なかったのだ。

 子供が産めない体になった良美から、離婚して他の人と幸せになってほしいと泣きながら言われたが、子供がいないのも俺の運命だと思い、良美を慰めながら看病をしたのが昨日のことのように思い出される。

 あれから二十四年、二十六歳だった俺は今年五十歳、良美は四十八歳か……。

 夫婦二人きりでの四半世紀近い生活、何度も夫婦喧嘩して何度も抱きしめた。もう言葉を交わさなくとも、良美が何を考えているかがなんとなく分かるようになってきている。

 笑顔で喋る良美を見ながらそんなことを考えていると、空になったビールの缶を持ってキッチンに行った良美がコーヒー焼酎を作って持ってきてくれた。やはり良美も、俺が何を考えてるか分かるんだろう。

 晩飯を食べ終わり良美が食器を洗っているとき、俺のスマホのメール着信音が鳴ったと同時に家の照明が突然消えた。

「キャッ!」

「なんだ? 停電か?」

 カーテンの隙間から差し込む月明かりを頼りに窓まで行き、カーテンを開けて付近の家を見るものの灯りは点いている。パチンと音がしたから我が家のブレーカーが落ちたんだろうと思い、懐中電灯を取りに行こうとダイニングを出たところで再び照明が灯った。

「なんなんだ? いったい?」

 勝手に電気が点いたんだからブレーカーが落ちたんじゃないな……。

 なぜ照明が消えたのか分からず、首を捻りながらスマホに着信したメールを見るとタイトルも本文も書いてない。

 不思議に思って送信者を見ると、俺のスマホにメールを送ったのは俺自身になっていた。

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