Gimme Gimme Shock Treatment 其の4
ヘンタイロスがワグカッチの風呂屋でのスペクタクルな体験を思い出して一人エキサイトしていると、アヘイジが屋台の下からなにやら取り出し、埃を払っている。見れば、それは硬そうなバネの塊だった。
「アヘイジさん、それは……」
「ヘッヘッヘ……ザーメインの旦那、覚えておりやすか? ワシが王宮に奉職しておった時分に使ってたギプスでさぁ」
アヘイジはザーメインを見てニヤリと笑い、ヘンタイロスの背中から腕にかけてバネを装着しはじめた。その器具は背中の部分でバネが鉄の輪に繋がっており、バネの途中の腕ほどの太さの鉄の輪に繋がり、さらに先にバネが付き手首ほどの太さの鉄の輪に繋がっている。
「おっ……おぅ……」
装着されたバネの反発力で体の動きが制限されたヘンタイロスは、思わず声を漏らした。このバネが何なのか分からず、不安そうな面持ちでアヘイジを見つめるヘンタイロスに、アヘイジから激が飛んだ!
「これぞ寿司職人養成ギプス。生のネタを素手で握る寿司は鮮度が命! 筋肉を鍛えてスピードを上げ、微妙な力加減の握りをマスターするのじゃ!」
寿司職人養成ギプス!
ギプスを装着され体の自由が利かないヘンタイロスは絶句した! まさかここまでして寿司を握る職人がいるとは……。アヘイジこそ馬鹿職人、いや職人馬鹿だったのである!
自身の身に起きている事に絶句するヘンタイロスを尻目に、またもやアヘイジは屋台の下から何かを取り出した。
それは小さな箱で、箱から出た線が六本垂れ下がっている。なんの箱かとザーメインを見ると、顔面蒼白になり体を小刻みに震わせているではないか!
「ア……アヘイジさん……まさか、それをヘンタイロスに……」
「ザーメインの旦那、先ほど申しましたようにワシは老い先短い身。今からワシの料理の全てを受け継ぐとすると三十年は掛かっちまう。しかし、これで驚異のスピードを身に付ければ三年でワシの料理を受け継げるかもしれねぇ。この器具はワシのアイデアを元にザーメインの旦那が設計し、王宮の錬金術師に発注してくださったもの。これの威力は旦那がご存知のはずじゃ」
不敵な笑みを浮かべるアヘイジと顔面蒼白のザーメイン。ヘンタイロスは二人が話す内容を理解できなかったので、箱についてザーメインに尋ねた。
「ねぇんザーメイン、この箱いったい何なのん?」
「よいかヘンタイロス、これぞ寿司怒雷武。雷を箱に溜め、雷の力で寿司を握る訓練をする器具じゃ。職人が寿司を握る様は王侯貴族が颯爽と馬を乗りこなす姿と通じるものがある。理論上、この器具で訓練すれば、馬でドライブするかの如く颯爽と寿司が握れるようになるはずじゃ。しかし……」
「しかし? なんなのよん?」
「寿司怒雷武を使っての特訓で生きていた料理人はおらんのじゃ……」
寿司職人養成ギプスだけでなく、そんな危険な器具まで使い料理を極めようとするとは……。職人馬鹿を通り越し狂い果てているとしか思えないアヘイジに、ヘンタイロスはクレームをつけて弟子入りを取り消そうと思ったが、相手は王宮の超一流料理人、おそらくクレーム対応も超一流に違いない。
――なるようになる。
覚悟を決めたヘンタイロスは、ザーメインとアヘイジを交互に見て言い放った。
「ワタシ、やってみせるわん! 寿司怒雷武で修行して、おじいちゃんの料理を受け継いでみせるわん!」
「よいのかヘンタイロス。寿司怒雷武を使うのは修行というより拷問じゃぞ?」
「かっ、覚悟はできてるわん」
「よく言った兄ちゃん。ワシの料理、見事受け継いでくれ!」
ヘンタイロスの言葉を聞いたアヘイジは満足そうに頷くと、寿司怒雷武から伸びている六本の線を寿司職人養成ギプスに繋げ、スイッチを入れた。
「アァッバァバァパパパッバァッ~! ブブブブ……ボォッポオォ~ッ!」
雷の力に打たれたヘンタイロスは髪を逆立てて白目を剥き、涎を垂れ流しながら奇怪な悲鳴をあげて体を小刻みに震わせはじめた。
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