Gimme Gimme Shock Treatment 其の2

オカマ地獄変

「うぅっ……」

 アヘイジが握った寿司を口に入れた瞬間、ヘンタイロスの後頭部に鈍器で強打されたかのような衝撃が走った! 全神経が勝手に口に集中し、寿司を食べることが止められない。吟味されつくしたコハダと絶妙な酢飯、シャリとネタのバランス、握り、そしてワサビの量、ひとつひとつの素材が完璧であり、その素材の組み合わせと調理も完璧なのである!

 シャリの一粒まで残さず飲み込んだヘンタイロスは、美味さの余韻に浸りながら寿司の美味さをアヘイジに伝えようとするものの言葉が出てこない。当然だろう、これほど美味い料理は食ったことがなく、その美味さを表現する言葉も持ち合わせていないのだ。

 呆然とした表情でアヘイジを見つめるヘンタイロスの目に涙が溜まり、いつしか頬を伝って流れ落ちた。アヘイジの寿司への感動がヘンタイロスの脳天から爪先まで広がっているのだ。その感動は今、何故かヘンタイロスの肛門をくすぐっている。

 あまりの衝撃に座ってられなくなったヘンタイロスは突然立ち上がり、屋台に向かって土下座し、地面に額を擦りつけながら涙も拭かずに懇願しはじめた。

「おじいちゃん! お願いよん! ワタシを弟子にしてちょうだいん!」

 だが、そんなヘンタイロスを見ていたアヘイジは、ザーメインを一瞥してから頭を横に振った。

「兄ちゃん、すまねえが弟子は採れねえ。ワシは料理を作る資格のねえ人間なんだ」

「なっ……何故なのん!?」

「ワシはもう包丁人じゃねえ。王宮の厨房から追放された人間だ。料理人になりてえなら他の職人に弟子入りしてくんな」

「追放された……?」

「ワシは三十五歳で王宮の厨房に奉職し、四十二歳で総料理長になった。毎日王様の食事を作り、女房と二人で育てた娘も嫁に出すことができた。六十歳になり、王様に召し上がっていただく新しい料理を研究していたワシは夜中に厨房に行き、見たくねえもんを見ちまった。女房が皺だらけの萎んだ乳を揺らして、流し場で立ったまま若い弟子を後ろから咥え込んでたんだ。それを見たワシは頭に血が上っちまって……気が付いたときは血の海の中に女房の死体が転がり、包丁を腹に刺したままの弟子がのたうち回っていた」

「――アヘイジさん、もういい。不義密通だったんじゃしアヘイジさん罪はない。国王直々の特赦もあり、誰憚ることなく料理人を続けられるはずじゃ」

 横からザーメインが口を挟み、アヘイジの言葉を止めた。土下座したままのヘンタイロスが見上げると、アヘイジは横を向き肩を震わせている。ヘンタイロスは立ち上がり、ザーメインの横に座り直した。

「アヘイジさん、気持ちは分かるがヘンタイロスの頼みを聞いてやってくれんかね? 貴公はイドラ島で三百六十年絶えていた包丁人の称号を得た男。貴公の料理、絶やすには惜しすぎる。ただの一貫で職人の腕を見抜いたヘンタイロスの才能、貴公にも分かってるはずじゃ」

「ザーメインの旦那……」

 アヘイジは小声でザーメインの名を呼ぶと、弟子にするともしないとも言わず再び寿司を握りはじめた。

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