第八話 Taken by Surprise 其の2
三人が部屋に戻って世間話をしながら時間を潰していると、だいぶ遅れてヘンタイロスがやって来た。
「ああ、いいお風呂だったわん」
肌をテカテカに磨き上げたヘンタイロスは上機嫌でベッドに座り、荷物から道具を取り出して化粧を始めた。
そんなヘンタイロスを横目で見ながらベラマッチャは世間話を続けた。
「流石にポコリーノ君が恐れ戦くイザブラー親分だ。城の様な屋敷だな」
「ああ、イザブラー親分の賭場はイドラ島中の街にある。一晩だけでも相当な稼ぎだろうから、こんな屋敷を構えられるんだろう」
「イドラ島の四分の三を縄張りにしている親分じゃ。余も今まで色々な人間を見てきたが、あんなド迫力を身に付けた男は見た事がない」
化粧をしていたヘンタイロスが三人の会話に口を挟んできた。
「本当にド迫力だったわねん。ワタシ、玉が縮み上がっちゃったわよん」
「貴様もか。余も玉が縮んだわい」
「むぅ、僕も玉が縮んだよ」
「俺の玉も縮んだぜ。なんだ、みんな玉が縮み上がっちまったのか」
四人は玉が縮み上がった話に一斉に笑い出した。会話は弾み、シャザーン卿の仁義の話になった所で扉がノックされ、風呂に案内してくれた若い男が入って来た。
「お客人、親分がお呼びです」
四人は顔を見合わせ、男に付いて部屋を出た。
ベラマッチャたちの居た部屋から更に屋敷の奥へ行き、立派な扉の前で立ち止まると男は扉をノックして部屋に入った。
「親分、お客人方をお連れしやした」
ベラマッチャたちが部屋に入ると、男は頭を下げて部屋から出て行った。残ったベラマッチャたちは部屋に居たイザブラーに対面に座るように言われた。
「連中の事はレゲエの大将に探らせている。詳しい事が判るまでここに居るといい。今はまだ動く時じゃねえ」
すぐにでもカダリカ一味を追いかけたいベラマッチャは不快感を露にし、イザブラーに抗議しようとした。
だがイザブラーは不敵な笑みを浮かべ、ベラマッチャの言葉を遮った。
「お前は今、俺から子分を千人ほど借り受けて、すぐにカダリカ一味を追い駆けようと考えただろう?」
「うっ!」
心の中を見透かされたベラマッチャは驚き、冷や汗を浮かべながら呆然とその場に立ち尽くした。
イザブラーはニヤリと笑い、冷や汗を拭う事すら忘れているベラマッチャを見つめた。
「フッフッフ……俺に心を見透かされたお前は、動揺を悟られないように必死になって見透かされた理由を探しているところだろう?」
「うぅっ……」
ベラマッチャは再び驚いた!
イザブラーは相手の心を読む魔術を使ったとしか思えない。衝撃が脳天からつま先へ駆け抜け、全身の力が抜けたベラマッチャは椅子にヘタリ込んだ。
「うぅ……親分は魔術を使ったのかね?」
「魔術? 俺は博打の業を使っただけよ。フッフッフ……何故、俺が人の心の動きを掴めるか? それを教えてやる。勝負事には絶対に必要な事だ。カダリカとの戦にも必ず役に立つだろう。付いて来い。賭場に行くぞ」
そう言うとイザブラーは立ち上がり、部屋を出て行った。四人は慌てて後を追うと、イザブラーは屋敷を出て近くの寺院に入って行った。
寺院の建物の横にある階段を降りて行き、扉を開けて中に入ると、奥にもう一つ扉があり男が一人立っている。
男はこちらに顔を向けると、慌てて頭を下げ挨拶をした。
「親分! ご苦労さんです!」
イザブラーが無言で扉を開けると、そこは地下で開帳されている秘密の賭場だった!
四人は息を呑みイザブラーの後から部屋へ入った。
部屋の真ん中には長方形の大きなテーブルがあり、その上に白い布団の様な物が置いてある。テーブルの長いほうの両側に大勢の男たちが椅子に座っており、短いほうに上半身裸の男が座り、二つのサイコロを壷に入れて振っていた。
イザブラーは男たちの横を通り、奥のテーブル席に座っている男の所へ歩いて行った。
テーブル席の男は飛び上がるように立ち上がり、イザブラーに向かってペコペコ頭を下げている。
「代貸、俺が預かる事になった連中だ。この連中を暫くの間ここで遊ばせてやれ」
「へい!」
イザブラーがベラマッチャたちを指すと男は頭を下げ、一掴み程の駒札をイザブラーに差し出した。
イザブラーは駒札をベラマッチャに渡すと、博打をしている男たちを指差した。
「丁と半、確率は二分の一だ……あの隅に座っている男が丁と半、どっちに賭けるか当ててみろ」
イザブラーの言葉に四人は顔を見合わせ、固唾を呑んでイザブラーが指した男を見守っていると、サイコロを入れた壷が振り下ろされ男たちが賭け始めた。
「僕は丁だと思う」
「俺は半だ」
「余も半じゃ」
「ワタシは丁よん」
「奴は半に賭ける……そしてサイコロの目は四・三の半だ」
イザブラーは男がどちらに賭けるかだけでなく、サイコロの出目まで予想した。
「半!」
「丁!」
イザブラーの指差した男は腕を組んで考え込み、まだ賭けていない。
「半方ありやせんか! 半方ありやせんか!」
半方の駒札が足りないため、壷振りの横に座っている男が盛んに声をかける。考え込んでいた男は決心がついたのか、目を見開いて手持ちの駒札を賭けた。
「半!」
「丁半、駒揃いやした!」
札が揃ったところで男の声が響き、壷振りの男が壷を上げた。
「四・三の半!」
ドォっとざわめきが起こり、丁に賭けた駒札が回収され半に賭けた客たちに分配されていく。その光景を見ていた四人は、サイコロの出目まで言い当てたイザブラーを驚きの表情で見つめた。
「フッフッフ……サイコロの目を予想すると同時に、目や筋肉の微妙な動きを見逃さず、どちらに賭けに来るのか相手の心理を予測する。これを『サイコロジー』と言う」
「サイコロジー!」
イザブラーの言葉に四人は驚愕した。ベラマッチャの心理を完璧に読み取った魔術としか思えないイザブラーの業は、『サイコロジー』という業だったのだ!
「今のはサイコロジーの基本中の基本だ。サイコロジーの究極は意識させないまま人の心を自在に操る事にある。カダリカの動きが掴めるまで、毎日この賭場に来て修行するといい。十年修行しても身に付く業じゃねえが、勘は鍛えられるだろう。先ずはサイコロの目を予想しながら正面に座っている男の心理を予測する事だ。今日からあの白い盆がお前等の修行の場になる」
イザブラーは顎でテーブルを指し示して四人に博打を打つよう促すと、後ろを振り向き賭場を出て行った。
四人は無言でイザブラーの背中を見つめていたが、扉が閉まると各々ベラマッチャから駒札を受け取って空いている席に座ると、四人は博打修行を開始した。
「五・五の丁!」
「一・四の半!」
威勢のいい声が響く賭場で、四人はイザブラーに言われたとおり、サイコロの目を予想しながら正面に座っている男の心理を予測し博打を打ち続けた。
白熱する賭場で一進一退の博打を打ち続けたベラマッチャだったが、やがて駒札が無くなってしまい、テーブルから離れて扉近くの椅子に腰を下ろした。
博打の熱気で頭がボウっとしているベラマッチャは、暫くの間博打を眺めていたが、やがて駒札が無くなったシャザーン卿とヘンタイロスがベラマッチャの所へやって来て、隣の椅子に腰掛けた。
二人に目をやると、両名とも頭がボウっとしているらしく、椅子に座ったままぼんやりと博打を眺めており、かなり疲れた様子である。
ベラマッチャが再びテーブルに目を向けたその時、大きなどよめきが賭場に捲き起こり、ポコリーノの前に大量の駒札が積み上げられた。
満足そうな表情で駒札を手元に集めるポコリーノの元に渋い表情の代貸が近寄り、耳元で何事か囁いている。するとポコリーノは何度か頷き、手元の駒札を抱えて代貸の後に付き賭場の奥へ歩いて行った。
やがてポコリーノがパンパンに膨れた皮袋を持ちベラマッチャたちの元へやって来た。
「ヘッヘッヘ……あの代貸、タダで遊んでるんだから今日はそれくらいで終わりにしてくれだってよ」
「むぅ、サイコロジーの修行も出来た事だし、今日はこれくらいで帰ろうではないか」
「余も疲れたわい。歳を取ると博打を打つのも疲れるのう」
「ワタシ、お腹が減っちゃったわん。早く帰って晩御飯にしましょうよん」
ヘンタイロスの言葉に空腹を思い出した四人は賭場を後にした。何時の間にか日は暮れており人通りも無い。四人は腹の虫の声を聞きながら、暗闇に静まり返った路を歩きイザブラーの屋敷に向かった。
屋敷に着くと、ベラマッチャたちの部屋に食事が用意されていた。腹ペコの四人は美味そうな匂いを嗅ぎながら食事を始め、すぐにたいらげてしまった。
食事を終えたベラマッチャが満腹の腹を撫で回しながら食卓を見回すと、皆残さず食事を終えているが、ポコリーノの皿だけに漬物が残っているのに気付いた。
「ポコリーノ君、木の芽の漬物は食わんのかね? 美味かったが?」
「ああ、これだけは食えねえ。俺が食ったら共食いになっちまうからな」
「本当ねん。ポコリーノが食べたら共食いだわん」
「余も人間は食えんのう。貴様が残すのも道理じゃ。しかし、ここでは無理して食わんと一宿一飯の恩義を仇で返す事になるぞ」
「シャザーン卿、無理言っちゃいかんよ。そらポコリーノ君、木の芽は如何かね?」
「うわっ! よせっ!」
満腹のベラマッチャとヘンタイロスが皿に残った木の芽を摘み、ポコリーノの口元へ運んで共食いを囃し立てて笑っていると、扉が開き男が紅茶を運んで来た。
「お客人、紅茶をお持ちしやした」
男はテーブルの上に紅茶を置いて皿の後片付けを始めた途端、血相を変え再び皿をテーブルの上に置くと、いきなりポコリーノを殴りつけた!
「この野郎っ! 姐さんが作ってくれたメシを残しやがってっ!」
「げぇっ!」
男は床に転がり落ちたポコリーノを睨みつけると、怒鳴りながらポコリーノを足蹴にし始めた。
「渡世人のくせに一宿一飯の恩義も分からねえのかっ! 叩き出してやるっ!」
ベラマッチャたちが男の突然の狂乱に唖然とし立ち尽くしていると、騒ぎに気付いたロエイゴーが若い者たちを連れて部屋へ入って来た。
「おい、なに騒いでやがる」
ポコリーノを足蹴にしていた男は振り返り、ロエイゴーに事の成り行きを説明した。男の説明を聞いていたロエイゴーは次第に顔を紅潮させ、遂に怒りの形相となってポコリーノを睨みつけた。
「この野郎~、一宿一飯の恩を仇で返しやがってぇ~。おい! ヤキだ! てめえ等この馬鹿にヤキ入れてやれ!」
「へい!」
若い者たちはポコリーノ目がけて一斉に襲い掛かった!
大勢の若い者に襲われたポコリーノは、なす術も無く床に転がったまま袋叩きにされている。ベラマッチャたちは何も出来ずにポコリーノとロエイゴーを交互に見るしかなかった。
「渡世人なら渡世の仁義をわきまえやがれっ!」
ヤキが終わり、ロエイゴーはぐったりしているポコリーノを睨みながら捨て台詞を吐き捨て、若い者たちと部屋を出て行った。
ベラマッチャはポコリーノの元に駆け寄り、抱え起こして声を掛けた。
「ポコリーノ君、しっかりしたまえ」
「うぅっ……ふざけやがってぇ~」
ポコリーノはベラマッチャの差し出した手を払い除け、ヨロヨロとした足取りで立ち上がると自分の席まで戻り椅子に座った。
ベラマッチャもポコリーノが大した怪我ではない事に安心し、自分の席に戻った。
「どうやら料理を残さずに食べるのが渡世人の掟らしいな。それにしても料理を残しただけでここまでされてしまうとは、渡世人の世界とは厳しいものなのだな」
「本当ねん。料理を残しただけで袋叩きなんて、ワタシ、ビックリしちゃったわん」
「だから余が言ったのじゃ。一宿一飯の恩義を仇で返すとな。明日は早く起きて庭を掃除するぞ」
シャザーン卿はベッドに横になりながら翌朝の事を伝えると、すぐに鼾をかいて寝てしまった。
「むう、旅の者という点では、僕等も人から渡世人と思われているという事だな」
ベラマッチャは鼾をかいて寝ているシャザーン卿を見ながら、渡世人の厳しい世界の一端を垣間見た事で、この世界で生き延びて行かなければカダリカへの復讐は出来ないと心を引き締めた。
翌朝、ベラマッチャたち四人は夜明け前に起き、シャザーン卿が言っていたとおり庭掃除を始めた。イザブラー屋敷は広大で、四人がかりで掃除をしてもかなり時間が掛る。
掃除を終えたのは朝も大分過ぎた頃だった。
ベラマッチャが掃除用具を片付けていると、ロエイゴーが顔を出した。
「フッフッフ……殊勝な心掛けだ。渡世の仁義はわきまえるモンだぜ。朝飯の用意がしてある。手を洗って部屋へ行け」
ベラマッチャたちは手を洗い部屋に戻った。ロエイゴーの言葉通り部屋には朝飯の用意がしてある。
「諸君、朝食を済ませたらサイコロジーの修行に行こうではないか」
掃除をして腹を減らしていた四人は手早く朝食を済ますと、早速昨日行った賭場へ向かった。
朝だというのに賭場は男たちの熱気に包まれており、そこ彼処から男たちの溜息や怒鳴り声が聞こえて来る。
ベラマッチャたちは代貸から駒札を受け取ると、早速空いている席に座り博打を打ち始めた。白熱の勝負の中、やがて駒札が無くなるとイザブラー屋敷へ帰って行く。
毎日繰り返される博打の中で、ベラマッチャたちは己の勘が研ぎ澄まされていくのを感じていた。
ベラマッチャたちがサイコロジーの修行に精を出して一ヶ月が過ぎた頃、夕暮れに染まるイザブラー屋敷を尋ねる者があった。
「親分、レゲエの大将が参りやした。中庭にお通ししてありやす」
イザブラーは若い者が部屋から出ると、中庭に面した窓を開けた。
外を見るとレゲエの大将が座っており、横にはもう一人老人が立っていた。イザブラーは老人の顔を見た瞬間、胸騒ぎがした。
イザブラーは部屋の扉を開け中庭に出ると、老人の前に進み出て恭しく挨拶をした。
「ザーメインの旦那、ご無沙汰しておりやす」
「久しぶりじゃな、イザブラー親分。挨拶は後じゃ。先ずはレゲエの大将の報告を聞こう」
レゲエの大将はザーメインをチラリと見て口を開いた。
「親分、カダリカ一味はキワイ山の麓、チブチの街を荒らして居座っておりやす。配下の者がカダリカの手下から聞き出した話ですと、これからキワイ山に向かい、三日後の満月の夜にキワイ大火山神復活の儀式を執り行うとの事」
「そうか……とうとう動き出しやがったか……。大将、ご苦労だった」
イザブラーは懐から皮袋を取り出すとレゲエの大将に差し出した。
「ヘヘヘ……こりゃどうも。じゃ、あっしはこれで失礼しやす」
レゲエの大将は満面の笑みを浮かべ、イザブラーから皮袋を受け取ると足早に去って行った。
「イザブラー親分、ベラマッチャたちを呼ぶのじゃ」
「へい。奴等は今、賭場に居りやす。早速呼び戻しやしょう」
イザブラーは若い者を呼び、ベラマッチャたちを賭場から呼んでくるように言い付けると、ザーメインを伴い部屋へと戻った。
「ザーメインの旦那、わざわざディープバレーまで来て頂かなくても、手紙を頂ければこちらから伺いやしたのに」
「いいや、ワシはここに来なければならなかったのじゃ。まあ話はベラマッチャたちが来てからするとしよう」
暫しの間、二人が雑談をしていると、扉をノックする音が聞こえ、若い者が入って来た。
「失礼致しやす。親分、お客人が戻りやした」
「部屋に通せ」
間もなく、若い者に案内されベラマッチャたちが部屋へ来た。
「ザーメイン……」
「何故ここに……」
四人はザーメインがイザブラーと一緒に居る事に驚いた。
ベラマッチャがザーメインに何故ここに居るのか尋ねようとすると、ザーメインは躍り上がって左手を突き出し、ベラマッチャが話すのを制した。
「皆、心して聞くがよい。先日、黒旗一揆騎士団の留守居役からワシの元に報告があった」
ベラマッチャはドキリとした。黒旗一揆騎士団は、イドラ島最強と謳われるダコーマ騎士団を中心とし、タイノーマ騎士団、ターン騎士団、そしてディープバレー騎士団からなるイドラ島北部を本拠地とする騎士団の連合体の名称である。
大陸で戦争中の騎士団から知らせとは、悪い知らせ以外に無い。
全員、生唾を飲み込み、険しい顔つきでザーメインを見据えた。
「ゲルゲリー殿が討ち死にしたそうじゃ」
ザーメインの言葉に、イザブラーは人目も憚らず号泣し、その姿を見たベラマッチャも溢れる涙を拭った。
幼少の頃から一緒に遊び、学び、語り合った友が亡くなったのだ。騎士団の統領と博徒一家の親分と立場が変わってしまっても、お互いの信頼は変わらないからこそ、ゲルゲリーはイザブラーに保安官として縄を預けたのだろう。イザブラーもゲルゲリーを信頼し、縄を預かったに違いない。
「ゲルゲリー殿は騎士らしい立派な死に様だったそうじゃ。イザブラー親分、貴公はゲルゲリー殿との約束を果たし、その死に報いねばならん筈じゃ」
イザブラーは泣きながら、ゲルゲリーとの最後の約束である『カダリカ一味打倒』を思い出し、袖で涙を拭きながら頷いた。
イザブラーの涙を見たザーメインも目に薄っすらと涙を溜め、目頭を押さえた。
「イザブラー親分、レゲエの大将の報告を」
イザブラーは立ち上がり拳を振り上げた。
「連中がキワイ山に向かったそうだ。カダリカを倒すのはキワイ大火山神復活の儀式で洞窟に入った時を狙うしかあるまい。これ以上、大陸から来た流れ者にイドラ島が荒らされるのは許せねえ! ベラマッチャよ! 今こそカダリカの野郎をブチ殺してイドラ島に平和をもたらすんだ!」
ベラマッチャは遂に時が来た事を知り、全身の毛が逆立つ様な高揚感に包まれた。
「今からすぐに此処を出立しろ。連中は三日後の満月の夜にキワイ大火山神の復活の儀式を執り行うらしい。ディープバレーからキワイ山まで急いで二日。時間がねえ」
イザブラーは手を叩いて若い者を呼び、旅に必要な物を用意するよう伝えた。若い者は荷物を手にしてすぐに戻って来ると、ベラマッチャたちにサンドガサ・ハットとカッパ・マントを始め、食料や松明など旅に必要な荷物を手渡して部屋から出て行った。
「貴公等、見事カダリカを討ち果たしたらポロスのワシの家に来るといい。シャザーン卿、預かっている物はその時に渡すとしよう」
「分かった。ではザーメイン、ポロスで会おう! 貴様等出発じゃ!」
ザーメインの言葉にシャザーン卿はニヤリとしてベラマッチャたちに出発を告げると、四人は荷物を手に玄関に向かった。
「親分、世話になった。僕等は必ずカダリカ一味を討ち果たす。ザーメイン、ポロスで再会しようではないか」
ベラマッチャはヘンタイロスの背に荷物を括り付けながら、見送りに来たイザブラーとザーメインに挨拶し、カッパ・マントとサンドガサ・ハットを身に付けた。
ポコリーノもカッパ・マントを着込んで学帽の上からサンドガサ・ハットを被り、シャザーン卿とヘンタイロスも身支度を整えている。
外は何時の間にか雨が降っていた。ベラマッチャは、まるで自分の心の中から降り出した様だと思いぼんやりと雨を見ていた。
シャザーン卿に急かされ我に返ったベラマッチャは全員の準備が整った事を知り、降り頻る雨と稲光の中、ヘンタイロスに跨ったシャザーン卿を先頭に渡世人姿で屋敷を後にし、キワイ山目指して旅立った。
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