第六話 Horror Business 其の5
ベラマッチャは両腕を広げて肩を竦め、ヅラスカヤに向かって一歩踏み出しながら答えた。
「僕らは君と赤ちゃんの人生を邪魔しとる訳ではない。行きがかり上、君と敵対してしまっとるだけなのだ。エージェントなどという仕事のほうが君らの未来を邪魔すると思うのだが、どう思うかね? 君は」
「あと三年勤めれば公務員年金の受給資格が貰えるんだ! 退職金で家を買い、カツラギルドに天下りする。カツラギルドとは、役員として天下る事で話がついているのよ!」
ヅラスカヤはベラマッチャが掛けてやったカッパ・マントを床に投げ捨て、横にある魔ヅラを握り締めながら叫んだ。
「――こんな事をしとるより子供の墓参りにでも行ったらどうかね? 死んだ子も草葉の陰で泣いとるぞ」
「スッペクタは流行り病を罹い街の連中に捨てられた。墓は無い」
ヅラスカヤの口から発せられた言葉にベラマッチャたちは驚き、お互いに顔を見合わせた。
「スッペクタじゃと?」
「暴行族の総長の名前だぜ? 奴は病を罹って捨てられてたところを、育ての親に拾われたって言ってたな」
「そうよん。ダウーギョのザブルド川の河原で拾われたって」
「フォックス・チャーチのお守りに名前を書いた紙が入ってたから、スッペクタと名づけられたと言ってたな」
ヅラスカヤを見ると、眉間に皺を寄せ厳しい表情で話を聞いていた顔が、見る見るうちに蒼白になっていく。
「そっ、そんな……。あの暴行族の総長はスッペクタ……」
ベラマッチャはマワシの間に挟んであったお守りを取り出すと、中に入っていた『スッペクタ』と書かれている紙を広げて見せた。
「これがスッペクタ君が肌身離さず持っていたお守りだ。中には名前が書いてある紙が入っとる」
ヅラスカヤは、ベラマッチャが持っているお守りと紙を交互に見ると力なく崩れ落ち、ポロポロと涙を流して両手を床に付いた。
「あぁ……私のスッペクタ……。私はなんて事を……」
蹲って嗚咽するヅラスカヤの姿を見たベラマッチャたちは、スッペクタが捜し求めていた母親が目の前に居る事を悟った。
生きていれば何時か会える、と語っていたスッペクタは、あれほど会いたがっていた生みの親に命を奪われてしまったのだ。
ベラマッチャはスッペクタの顔を思い出し、再会が永遠の別れになってしまった親子の悲惨な運命に涙しながら、心の中で神に呪いの言葉を吐きかけた。
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