第四話 Death,Agony and Screams 其の6
廊下は静まり返り、まったく人気が無い。最上階のスイートルームは、階段前のベラマッチャたちの部屋をはじめ、真ん中の部屋、奥の部屋と廊下沿いに三部屋並んでいる。
「階段の所に隠れておれ」
姿が見えないシャザーン卿の声にベラマッチャたちは無言で頷き、息を殺して階段の壁際に潜んだ。
壁の角から顔を出して覗くと、スッペクタ一人が奥の部屋に向かって歩いて行く。緊張のためか、スッペクタの動きはぎこちない。
スッペクタは奥の部屋の前に立つと、緊張の面持ちで深呼吸し無表情になった。おそらく、魔ヅラを被っている演技だろう。
スッペクタが扉をノックすると女が出て来た!
「暴行族……。不審な連中と乱闘して解散した筈……。まあよい、連中について聞きたい事がある」
女はスッペクタを疑惑の篭った目でジロリと見ると、廊下を窺ってから中へ招き入れた。
扉が閉まると、ベラマッチャは大きく息をついた。
「フゥ、緊張したな、諸君」
「シャザーン卿は部屋に入れたのかしらん?」
緊張のため、皆が一息ついていると、目の前からシャザーン卿の声が聞こえて来た。
「股ドールだけじゃ! 扉の鍵は開けてある。貴様等、すぐに来るんじゃ!」
声を潜ませて喋る、姿の見えないシャザーン卿にドキリとしながらも、ベラマッチャたちはすぐ行動に移した。足音を忍ばせて奥の部屋へ向かい、扉の前に立つと、ベラマッチャは音を立てない様ゆっくりと扉を開け始めた。
「諸君、行くぞ!」
ベラマッチャの合図と共に、全員が一斉に部屋へ雪崩れ込んだ!
「ヅラスカヤという、けしからんレディは君かねッ!」
ベラマッチャは扉を閉め、大声で叫びながら部屋へ入ると、信じられない光景が目に飛び込んで来た!
「あぁッ!」
部屋の中央で、スッペクタが血の海に横たわっているのである!
ヘンタイロスもポコリーノも、そしてパンチョスまでもが、凄惨な光景に絶句し立ち尽くしていた。
スッペクタの遺体の横では、身体が透けて見えそうなくらいに薄い、赤いドレスを身に纏う美しいフェロモン熟女が妖艶な笑みを湛えながらソファーに座っている。
「フフッ……。驚いたかしら? でも、貴方達もこうなるのよ」
熟女はテーブルの上のグラスを取り、葡萄酒を一気に飲み干すと、唇から零れ落ちる雫をゆっくりと舌で舐め取り、グラスをテーブルに置き喋り始めた。
「私の事はご存知のようね……。この『マダム・ヅラスカヤ』と戦おうなんてお馬鹿さんたち、初めて見たわ。ウフフッ……」
そう言うとヅラスカヤは、空になったグラスに葡萄酒を注ぎ、ウインクしながらベラマッチャたちに向かって乾杯した。
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