第三話 Substitute 其の6
扉を開けて外に出ると、ポロスの街の喧騒に包まれた。カダリカ一味に襲撃されたこの街も、だいぶ賑わいを取り戻している。大陸との戦争で税金が上がっていると聞くが、街の人々は知恵を絞って遣り繰りしているようだった。
ベラマッチャが大きく息を吸い、身体を解していると、ヘンタイロスが不安げな顔で近づいて来た。
「ねえんベラマッチャ、エージェントと戦うって言っても、どんな相手か分からないんじゃ戦えないわよん?」
「むぅ、確かにその通りだ。魔ヅラを防げば勝機も見い出せそうだが……」
「ヘヘヘ、閃いたぜ! 先に何か被ってりゃいいのよ! 俺の学帽みたいにな」
ポコリーノが手を叩いて自分の閃きを口にすると、ヘンタイロスの顔がパッと明るくなった。
「それだわん!」
「確かに被らなければ、魔ヅラとて効かなかろう」
傍らにいたシャザーン卿も頷いている。ベラマッチャはポコリーノのアイデアに感心し、このアイデアについてどう思うかザーメインに聞いてみる事にした。
「ザーメイン、直接頭に被らなければ魔ヅラは効かんと思うが、君はどう考えるかね?」
ザーメインは白髪頭を撫でながら、下を向いて考え込んでいたが、やがてベラマッチャに顔を向けた。
「それは素人考えじゃろう。職人の技は門外不出、被り物で防げるかはワシにも分からん。じゃが、二重、三重の防御はしておいたほうがいいじゃろう」
ザーメインが話をしていると家の扉が開き、パンチョスが苦笑いを浮かべながら外へ出て来た。
「ふぅ、まいったぜ」
「貴公、後始末はしたんじゃろうな?」
ザーメインはパンチョスを見て一言だけ言うと、再びベラマッチャたちを見て話を続けた。
「とにかく、どんなエージェントかも分からんのじゃ。街の道具屋で仮装行列用の、頭から被る面が売っておる。面を被り、その上からサンドガサ・ハットを被るのがよかろう」
「むぅ、そうしよう。被り物で防御し、いちかばちかエージェントへ先制攻撃をかけようではないか。それとスッペクタ君がカツラを被っていないのは不味い。カツラを着けて、股ドールの元へ案内して貰おう」
「貴公等、何かあったら、すぐにワシの元へ来るんじゃ。良いな?」
ベラマッチャたちはザーメインと別れ、スッペクタと共に道具屋へ向かった。
不敵な笑みを放つ不気味な男の面を五個買い求めると、今度はカツラ屋へ向かい、七・三分けのカツラを買ってスッペクタに被らせた。
シャザーン卿がヘンタイロスの背に跨り鞭を打つ音が響くと、ベラマッチャたちはポロスの街を後にしてワグカッチへ向かった。
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