第二話 Teenage Robotomy 其の8
「三ヶ月くらい前、集会が終わって友達の家に行く途中で出会ったんだ。ムチムチの身体でエロい格好してたよ。最初は立ちんぼかと思ったけど、『道に迷ったからホテルまで送って欲しい』って言うんで、馬に乗せて送ってやる事にしたんだ」
男は息をつき、ベラマッチャ達を見回してから再び喋り始めた。
「オバサンは馬に乗ると、俺の身体に両手を回してしがみ付いてきた。オバサンがつけてる香水は何とも言えない良い匂いだし、柔らかい身体をグイグイ密着させてくるもんだから、俺の股間は大きくなっちまった。そしたらオバサンは、俺の息子に手を伸ばして弄り始めたんだ。オバサンが俺の息子を弄りながら『姦りたいか?』って聞くんで、姦りたいって返事したら、泊まってる部屋へ連れて行かれたんだ」
そこまで話すと男は下を向き、黙り込んでしまった。
ベラマッチャは続きを聞き出そうと男の傍らにしゃがみ込み、目を見据えながら話しかけた。
「それで……どうだったのかね? 熟女の味は?」
暴行族の男は好色そうな表情を浮かべてベラマッチャの顔を見た。
「それが凄えの何の! あんな技でイカされたのは初めてだったぜ! もの凄いテクニシャンだったよ」
ベラマッチャは男の話を聞き考え込んだ。おそらく事が済んでから、熟女は男にカツラを被せたのだろう。男の話を聞く限り、カツラを被ってプレイしたとは思えない。その熟女こそ、銅像が聳え立つ台座の上で男が叫んでいた『ヅラスカヤ』なる女だろう。
「なるほど。そして熟女の頼みというのが、カツラを被る事だったのだな?」
「そうなんだ。何でもカツラ販売店の営業でワグカッチに来たから、宣伝のためにカツラを被って欲しいって言われたんだ。ダサい七・三分けのカツラだったけど。でも、カツラを被ってから今まで、何も覚えてないんだ……」
男の話に、ベラマッチャは、この一件には裏があると直感した。暴行族の若者たちが自ら、稼業人にまで喧嘩を売る様な真似をする訳がない。
ベラマッチャは男を見ながらふと、この若者の名前すら知らない事に気付いた。
「キミィ、そう言えば名乗っていなかったな。僕はアンソニー・ベラマッチャ。こちらはシャザーン卿とポコリーノ君、ヘンタイロス君だ。君の名前は?」
「ベラマッチャ……。どっかで聞いた名前……。俺はスッペクタ」
「聞いた事があるかね? カダリカ一味を殺った男たちとして、イドラ島では多少、名前が売れとる」
ベラマッチャはスッペクタに恐怖心を抱かせないよう、微笑みながら答えた。
「カッ、カダリカ一味を殺った連中!」
それでもスッペクタは仰天し、恐怖で顔を引き攣らせながらガタガタと震えだした。
ベラマッチャは、これ以上聞き出すのは無理だろうと思い、家までスッペクタを送ってやる事にした。
「諸君、彼の様子では、これ以上聞き出すのは無理だろう。彼を送ってやり、僕等も帰ろうではないか」
「そうするかのう」
「どうやら裏があるぜ、この一件は。明日から出直しだな」
シャザーン卿たちも、この一件には裏があると睨んでいるようだ。
ベラマッチャはスッペクタを立たせ、家の場所を尋ねた。
「家まで送ろう。場所はどこかね?」
「両親が死んでから、家には帰ってないんだ。俺は拾われた子供だし、住んでた家は親戚に取られちまったから、今は友達の家を泊まり歩いてる」
「拾われた?」
「あぁ、流行り病を罹って、ダウーギョの街のザブルド川の河原に捨てられてたって聞いてる。フォックス・チャーチの赤いお守りに、スッペクタって名前が書いてある紙が入ってたんだ」
そう言うと、スッペクタは首から下げたお守りを取り出し、ベラマッチャ達に見せた。
「いつか本当の親に会えるかもしれないだろ? だから大切に持ってるんだ」
スッペクタは愛おしそうな顔でお守りを見つめ、まだ見ぬ生みの親と再会したいという夢想を語った。
ベラマッチャは、生みの親に捨てられ、育ての親とも死に別れたスッペクタに同情し、無言でスッペクタの肩を叩いた。
「では僕等が泊まっとる家へ来るといい」
そう言うとベラマッチャ達は、白み始めた空の下を、スッペクタを連れてマラッコの家に向かって歩いて行った。
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