第一話 Violent World 其の5
「要するに暴行族をブチのめせって事さ」
「暴行族……。馬を乗り回してる連中の事じゃのう」
「凶暴なんでしょうん? ワタシたちの言う事を聞くのかしらん?」
「ケッ! ガキ共なんざ何人いようが楽勝だぜ! カダリカの手下みたいに武装してる訳でもねえ。頭を潰しちまえば後は烏合の衆さ」
言い終わるとポコリーノは立ち上がり、サンドガサ・ハットとカッパ・マントを掴んだ。
「ポコリーノ君、どこへ行くのかね?」
「ヘヘヘ、俺も身体の故郷へ行ってくるぜ。晩飯までには戻ってくるからよ」
「夜中になれば暴行族が集会を開く。それまでには帰って来てくれたまえ」
「ああ、一発だけにしておくぜ」
ポコリーノが部屋の扉を閉めると、ヘンタイロスが口を開いた。
「ねぇんベラマッチャ、暴行族って何人くらいいるのかしらん?」
「以前、賭場から帰るときに、東ワグカッチの広場が暴行族で埋まっているのを見ただろう? ざっと千人は下らんな」
「千人!」
窓から差し込む、夕暮れの日差しを浴びたヘンタイロスが驚きの表情を浮かべた。
ヘンタイロスが驚くのも無理はない。カダリカの兵隊ですら百人程度だったのだ。いくら武装してないとはいえ、千人は尋常な数ではない。
「ヘンタイロス君、人数は多いだろうが街の若者たちの集団だ。話せば分かってくれると思うが?」
ベラマッチャはヘンタイロスの不安を察し、安心させようと平静を装い話しかけた。
ベラマッチャ自身、不安が無い訳ではない。千人もの人間を大人しくさせなければならないのだ。だが世話になっているマラッコから頼まれた仕事、断れば渡世人として仁義を欠く事になる。
「シャザーン卿、キミも大人として、暴行族の諸君を説得してくれたまえ。マラッコの親分の手前、是が非でも大人しくなってもらわねばならん」
ベラマッチャは自身の不安を出さないよう、シャザーン卿を見た。
「ポコリーノの言うとおりじゃ! ガキなんぞ、ブチのめしてしまえばよい。簡単な事じゃ!」
シャザーン卿の勇ましい発言に、何故かベラマッチャはホッとし、胸の奥にあった不安が薄くなっていく気がした。シャザーン卿は盗賊として、幾多の修羅場を潜って来た男なのだ。それにポコリーノは喧嘩のプロフェッショナルである。
ベラマッチャはヘンタイロスの肩を軽く叩いて窓の側へ歩いて行くと、夕暮れに染まる街を眺めながらポコリーノの帰りを待つ事にした。
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