プロローグ
男は歌の無い土地で歌ってきた。激しく、速く、五月蝿い死の歌を。
大勢の中で一人ぽっちで歌ってきた男は、カッパ・マントを風に靡かせ、長い顎を引いて猫背で歩いて行く。
頭にサンドガサ・ハットを被っているが、長大なリーゼントがはみ出し、カッパ・マントと一緒に風に靡く。
風に靡くカッパ・マントの下からは、時折、夕日を浴びたギターのネックがキラキラ光って見える。
孤独を紛らわすため、男はポンの実の粉を吸っていたが、キワイ山での出来事を切っ掛けにポンの実を絶つため、入院した。
(フッフッフ……前略、ベラマッチャさん。ポン中の治療も終わり、クリーンな身体になって退院したぜ。入院中は三毛猫印の飛脚便で見舞いを頂戴し、感謝感激。退院してすぐ、小遣い稼ぎに賞金首を一人殺ってきた。昨日、渡世人から、あんた等がワグカッチの街に逗留して博打を打ってるって聞いたぜ。派手な噂と共によぅ。待ってろよ、今俺も行くぜ……)
夕焼けの中、男は僅かに早足になり、独り言を言いながらサンドガサ・ハットを被り直して歩いて行った。
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