ロックンロール・ライダー:第十七話
鍋とフライパンを片付けて服を脱ぎ、バスルームに入りシャワーを浴びる。
股間を見れば女の液体がベッタリ付き、白く乾いてバリバリになった自分の陰毛があった。
(これじゃ女の匂いがするって嫌な顔されるよなぁ……)
電車の中で、白い眼で俺を見ていた女子大生の集団を思い出す。
シャワーで流し、体を洗ってサッパリすると、バスルームから出てギターを取り出した。
以前からコピーしようと思っていたレザーフェイスの「トレンチフット」をラジカセで流し、ギターを弾く。
曲を途中で止め、繰り返し再生しながら弾いていくが、同じところで何度もつまづいてしまう。
弾けるようになるまで何度も練習し、なんとか間違えずに曲の最後まで終わらせてからラモーンズの「ブリッツクリーグ・バップ」を軽く弾き、ギターを片付け布団を敷いて床に就いた。
翌朝、目が覚めてから部屋の掃除をしたものの、やることもないので江戸川の土手をブラついたり、わざわざ亀有まで行って夕食の買い物をしたりして時間を潰すが、しんと静まり返った部屋に戻ると虚しさに襲われる。
(あの娘の顔を見ながら蕎麦屋で夕食を済ませたほうがよかったかなぁ……)
名前も知らない蕎麦屋の娘の笑顔を思い出し、コンビニ弁当で済ませる夕食に後悔の気持ちが浮かぶ。
太陽のような笑顔、溌溂とした振舞い、そして弾む巨乳……。
布団の中で悶々としながら妄想が始まり、蕎麦屋の娘とのベッド上の格闘を描きはじめるが、翌日は出向先へ初出勤だということを思い出してトイレへ向かった。
膝までパンツを下して便座に腰掛け、止まらない妄想に合わせて右手を動かす。
いよいよ明日から本格的な仕事がはじまる。早く脳内からエロ妄想を消し去って、戦闘モードに切り替えなければならない。
脳内でエロビデオのように都合よくストーリーが進み、妄想のフィニッシュと同時に猛り狂った分身から欲望が迸る。
トイレットペーパーで幾億もの生命の素を拭い、部屋に戻り床に就く。三日連続で出したためか分身がヒリヒリするが、これでぐっすり眠れるだろう。
スッキリした気分で眠り、目が覚めると朝七時。慌てて着替えてアパートを飛び出し、高砂駅へ向かう。
なんとかいつも乗る時間帯の電車に間に合ったが、大変なのはこれからだ。ホッとしてる暇はない。
到着した電車から降りる人たちを待ち、流れに身を任せて乗り込む。
列の最後尾だった俺は、扉が閉じる前に駅員に無理やり背中を押され、まるで缶詰の中に詰め込まれる気分になる。
駅に到着する度に繰り返される人間缶詰。降りたり乗ったりして疲れてきたころ、やっと日本橋にたどり着いた。
タイムカードを打刻して上の階にあるシステム部に顔を出すと、もう駒田主任と馬場さんが来ており雑談している。
「おはようございまーす」
部屋に入ると、駒田主任と馬場さんが同時に振り向き挨拶してきた。
「おはようございます」
挨拶して二人と雑談していると安田さんも出社してきたので、いよいよ職場である大門の富士見銀行システム部へ向かうことになった。
「じゃあ全員揃ったので富士見銀行へ行きましょう」
駒田主任を先頭に会社を出て、みんなで雑談をしながら日本橋駅へ。
富士見銀行システム部は大門駅から歩いてすぐらしい。京成押上線は都営浅草線直通だし、高砂駅から乗り換えなしで通勤できる。定期券が今月末で切れるから、来月からは大門までの分を買おう。
駅で切符を買って電車に乗ると、通勤時間帯を過ぎた地下鉄はガラガラに空いていて全員座れる。
日本橋から大門までは四駅、十分足らずで着く距離だ。東銀座から二駅だし、なにか困ったことでも起こったら銀座の伯父さんの家に行けばいい。浜離宮を挟んだ反対側だし距離も四キロくらい、最悪歩いても行けるだろう。
電車の中で雑談しながら、そんなことを考えているうちに大門に到着、電車を降りて富士見銀行システム部へと向かった。
大門駅から歩くこと五分。富士見銀行のシステム部が入っているビルは、近くで見上げると首が痛くなるような三十階建てのビル。
自動ドアをくぐってビルの中へ入り、受付で入館証を見せてエレベーターに乗る人の列に加わった。
仕事の本番を迎えて緊張感が高まってきているのか、馬場さんも安田さんも無口になってきている。
俺も心なしか緊張し、気が付けばライターズの「レッツ・ゲット・トゥゲザー」を頭の中で再生していた。
しばらくするとエレベーターが到着し、降りる人を待ってから最後に乗り込んだ。
駒田主任が押したボタンは十三階。途中の階で降りる人たちもいて、だんだんエレベーター内が空いてくる。
軽い緊張感にドキドキしながら無言でいるうちに、とうとうエレベーターは十三階に到着した。
エレベーターを降り、駒田主任が目の前にあるドアを開けると、明るい室内で大勢の人が働いているのが見える。
広々としたフロアは、映画やドラマで見たサラリーマンの世界そのもの。ブツブツ独り言を言いながらコンパイルリストを眺める人や頭を抱えて貧乏揺すりをしている人、忙しなく書き込みをしている人などの横を通りながら、駒田主任に連れられフロアの隅に向かった。
その場所には新井主任や薮田さんをはじめ、新人歓迎会で見た人たちが座っている。
「ここが我に割り当てられた机です。安養寺君は私の隣、安田さんと馬場さんは新井君と薮田の間の机を使ってください」
俺の机は薮田さんの向かいだ。歓迎会では話せなかったけど、何か共通の話題でもみつけて話してみよう。
「安田さんと馬場さんは新井主任からサブシステムの説明を受けてください。安養寺君は私から説明します」
「皆さん、よろしくお願いします」
机の上に荷物を置いて新人三人で先輩方に挨拶し、さっそく駒田主任からサブシステムの説明を受けた。
俺が受け持つのは銀行の用紙監査部分、支店で使っている用紙の数を自動カウントし、一定数になったら発送するように倉庫に指示を出すプログラムだ。
単純そうだけど初めて作るプログラム。
駒田主任の説明を聞きながら、黙々と仕事をする薮田さんをチラリと見て、これから始まる仕事を前に気持ちを引き締めた。
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