第六話 Horror Business 其の2
マワシ一丁になったベラマッチャが伸び上がって前方を見ると、中州はもう目の前に迫ってきている。
ベラマッチャは中州に到着する前に聞いておかねばと、ヅラスカヤに質問した。
「レディ、君は暴行族に七・三分けのカツラを被せ、ポコリーノ君にはパンチパーマのカツラを被せた。暴行族は夢遊病患者の様になり、ポコリーノ君は狂乱しとる。これは一体どういう事かね?」
ヅラスカヤは中州を見つめながら、ポツリと呟いた。
「カツラはヘアスタイルにより被った者に様々な効果を及ぼすの。七・三分けのカツラは勤め人のように命令に従い、パンチパーマのカツラは被る者の凶暴性を引き出す」
ヅラスカヤの言葉を聞き、ベラマッチャは顎を撫でながら考え込んだ。王宮の職人が作るカツラが二種類だけとは思えない。
「キミィ、ではカツラは他にも種類があるという事かね?」
「そうよ。でも私たちアシスタントが使うのは主に七・三分けのカツラ。ヅラ師は多くの種類を使いこなすけど」
「ヅラ師は常に、多くのカツラを持ち歩いとるのかね?」
「そのとおりよ」
ヅラスカヤはカッパ・マントをきつく身体に巻き付けて下を向き、愛おしそうに腹に手を添えた。
やがて船が中州に到着すると、ベラマッチャたちはヅラスカヤを連れて中洲に上陸した。
全員の力を合わせて船を中州に上げ草叢に隠すと、シャザーン卿はヘンタイロスに騎乗し、ベラマッチャがヅラスカヤの身体に繋がるロープを握ると、一行は鬱蒼と茂る森の奥に向かって歩き始めた。
「レディ、カツラスキーのアジトへ案内してくれたまえ」
ベラマッチャの言葉にヅラスカヤは頷き、先頭を歩くヘンタイロスに方角を指し示す。
朝だというのに日の光は届かず、森の中は薄暗い。ヅラスカヤの言葉に従い、森の奥へと歩を進ませる一行に、鳥や獣の鳴き声が浴びせかけられる。不気味に吠える獣たちの声を聞く度に、ビクンと身体を震わせて立ち止まり、辺りを窺っては歩き出す。
まだ見ぬカツラスキーへの恐怖感と、それを増幅させる森の住民たちの鳴き声に、ベラマッチャたちの緊張は極限に達している。
心臓の鼓動が早まるのに合わせるかのように、歩く速度も早くなっていく一行の目の前が突如として開けた!
ベラマッチャたちの眼前に、森を切り開いて作ったと思われる家屋が出現したのである!
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