第五話 Frankenchrist 其の3
シャザーン卿はパンチョスから受け取った服を着ると、部屋の中を見廻してベッドの脇にしゃがみ込み、ヅラスカヤの身体を縛り付けてあるロープの先を解き始めた。
「おっ、おいキミィ……」
驚いたベラマッチャが声をかけると、シャザーン卿が振り向いた。
「ここにエージェントが来たらどうするんじゃ? それにスッペクタの死体もある。余等の部屋へ行ったほうが良い」
「そうねん。あんな怖い目に遭ったばかりで、すぐにエージェントと戦うなんて御免だわん」
「フッフッフ……。向こうでじっくり痛めつけるか」
「むぅ、僕は股ドールを捕らえた事で頭がいっぱいだった。そこまで考えているとは、流石はシャザーン卿だ」
ベラマッチャたちは頷き、シャザーン卿と共にベッドの脚に縛り付けられたロープを解き始めた。
ベッドに縛り付けたロープを解いたとはいえ、それでもヅラスカヤの身体はシャザーン卿の亀甲縛りにより、両手、両脚の自由は利かない。これなら目覚めても危害を加えられる事はないだろう。
「ヘンタイロス、ポコリーノを連れて来るんじゃ。ベラマッチャとパンチョスは、この女の荷物と余等の持ち物を持ってまいれ。魔ヅラの入ったバッグを忘れるな」
そう言うとシャザーン卿は、ベラマッチャたちが被っていた面と、ヅラスカヤを縛っていたロープをヘンタイロスの背中に括り付けてあるバックパックに仕舞い込んだ。
ベラマッチャも、失神しているポコリーノを抱え上げてヘンタイロスの背に乗せると、スッペクタの亡骸の横に座って遺体の首にかけてあるフォックス・チャーチのお守りを取り外し、マワシの間に捩じ込みながら心の中で念仏を唱えた。
(スッペクタ君、君の仇は必ず取る。いつか君の両親と出合ったら、君の事を伝えよう……)
ベラマッチャは立ち上がり、魔ヅラが入っているバッグと、この部屋の鍵を手に取った。パンチョスを見るとバッグを二つ持っている。
「パンチョス君、忘れ物は無いかね?」
「あぁ、箪笥の中は空だった。これで全部だろう」
二人がシャザーン卿を見ると、シャザーン卿は無言で頷き、ヅラスカヤを肩に担ぎ上げた。
「ヘンタイロス君、廊下に誰もいないか見てくれたまえ」
ベラマッチャは扉の近くにいるヘンタイロスに声をかけ、外の様子を窺わせた。
「誰もいないわん」
ヘンタイロスの声を聞き、ベラマッチャたちは急いで部屋を出た。
ベラマッチャは最後に部屋を出ると扉に鍵を掛け、廊下を歩く三人の後を追い忍び足で歩いて行った。
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