ロックンロール・ライダー:第十三話

創作長編小説

 便器の前に立つと、どれくらい膀胱に入ってたんだと思うほど小便が出る。

 スッキリして外に出ると、みんな帰ってしまったのか会社の人たちは誰もいない。

 飲み会の喧騒から解放され、週末で賑わう都会の雑踏の中に一人取り残されてみれば、周りに人があふれて騒がしいのに孤独感に包まれるのは何故なんだろう。

 酒で火照った体を冷やしてくれる夜風が心地よい。その風に乗るように人混みをすり抜け、コツコツと足音を刻みながら進み路地に入る。

 六本木駅に向かって歩いていくと、目の前にある自動販売機のところに人が立っていた。

(さっきの外人だ……)

 近くまで来て分かったが、立っていたのはトイレで鉢合わせした外人である。なぜか女がこちらを見ているので咄嗟とっさに視線をらせて歩みを速め、とっとと立ち去ろうとした。

 ところが、女はフラリと俺の前に立ちふさがり、ギラギラした眼つきで顔を近づけてきて体をベタベタ触りはじめたのだ。

「ア~ナタハァ、ハンサムデェス」

「ハァ?」

 片言の日本語で喋る女は酒が入った俺から見てもベロベロに酔っており、完全に理性が飛んだ目をしている。猛烈に悪い予感がするものの、女が抱きついてきて身動きが取れない。

 無理やり振りほどいて逃げようと思ったが、相手は女だし、乱暴な扱いをして怪我でもされたら日本男児の沽券こけんにかかわる。

 だが、躊躇ちゅうちょする俺を嘲笑あざわらうかのように、外人女は両手で俺の顔を抑え、いきなりキスしてきたのだ!

(口の中にベロが入ってきた!)

 口中で動く女の舌の感触に驚き固まっていると、女は俺から顔を離し、左腕を俺の右腕に絡めて引っ張るように歩きはじめる。

 どこへ行くとも知れず彷徨さまよい歩くが、密着する女の胸が俺の腕に当たっている。その柔らかい感触に、体の一点にだけ血液が集まり歩きづらくなってきた。

(うっ……)

 バッグで前を隠し、腰を引きモジモジしながら歩いているのを不審に思ったのか、いきなり女は右手で俺の股間にある変形部分を触ってきたのだ!

「ハァ~ン」

 外人の目がキラリと光り、ペラペラと英語らしき言葉を喋りはじめた。

 時々すれ違う人は分身を握られた俺を見てニヤニヤ笑い、女性などは嫌悪感丸出しの表情で顔を背けて足早に過ぎ去っていく。

(は、恥ずかしい……穴があったら入りたいとはこのことだ)

 困り果てて周りを見れば、目の前にある建物のカラフルな明かりが道路を照らしている。入口の感じから、ビルの一階に入っているカフェらしき店のようだ。

 ここに入って外人から逃げよう。とりあえずコーヒーでも頼み、女がトイレにでも立ったすきに帰っちまえばいい。

 そう思い、ズボンの上から俺の分身を握る女を引っ張り下を向いたままカフェに入った。

(あれ?)

 自動ドアをくぐると、目の前には受付カウンターのようなものしかない。

 奥に座席があり、カウンターで注文してから案内されるタイプなのかもしれないと考え、受付のおじさんに伝えた。

「ブレンドふたつ」

「――まず部屋をお選びください。三〇ニ号室と四〇一号室が空いてますが、どちらになさいますか? コーヒーは後ほど部屋へお持ちします」

「えっ?」

 おじさんが差し出したメニューのようなものには、大きなベッドが置いてある綺麗な部屋の写真と金額が記載されている。

 まさか個室喫茶なのかと思いメニューのようなものをよく見ると、そこには「ホテル」の文字があるではないか!

 どこに入ってしまったのかを悟り、一気に血の気が失せると同時に一極に集中していくのが分かる。急に心臓の鼓動が速まり、ドキドキと大きく脈打つ。

 そう、俺は恥ずかしくて穴に隠れたつもりが墓穴を掘ってしまったのだ!

 盛大な自爆に唖然として立ち尽くしていると外人女が三〇二号室を指さし、おじさんがトレイをカウンターの上に置いた。

「休憩は二時間七千円、宿泊は一万ニ千円です」

 おじさんが言うと同時にエレベーターが停止した音が聞こえ、横から若い男女が腕を組んで歩いてくる。

 完全に動転して逃げることも脳内から消え去り、言われるまま財布を取り出して休憩料金を支払う。

 もうなにも考えることができず、まるでプログラムされた機械のようにエレベーターに乗り三階で降りると、薄暗い廊下の片側に部屋のドアが並んでいた。

 飛び出しそうなくらいの心臓の高鳴りを、俺の分身を握ったまま生贄いけにえの子羊を祭壇まで引き連れていくように歩く外人女に気づかれないかなどと、妙なところで男のプライドが頭をもたげてくる。

 ドアに表示されている番号を見ながら廊下を歩き、いちばん奥の部屋の手前に三〇二号室を発見、中に入ると写真で見たより狭い。

(穢れない真っ白な俺よ、サラバだ……)

 孤立無援の密室に入り、とうとう俺は覚悟を決めた。

 想像してたのとは違い、彼女や憧れの年上女性との初体験じゃない。いきなり知らない外人に抱きつかれ、逃げ込んだ先がラブホテルという間抜けぶり。

 事故に遭ったようなものだが、交通事故で命まで失くす人もいるんだ。そう考えれば俺の童貞なんて大したことじゃない。それに、ここに来たのは自殺点を入れてしまったようなものだろう。

 自滅同然の行動がおかしくなり、クスッと一人笑ったところでチャイムが鳴った。

 ドアを開けると、受付のおじさんがコーヒーを持って立っている。

「千円になります」

 その場で支払い、ドアの鍵を閉めてコーヒーをテーブルの上に置き、二人でソファーに座った。

「オ~ゥ」

 抱きついてきて俺の耳を甘噛みしはじめる女。どうしていいか分からず、とりあえず右腕を外人の肩に回してみた。

 すると、いきなり外人女は俺のネクタイを外して服を脱がせはじめたのだ。

 上着を脱がされ、女がズボンのベルトを外しているうちに自分でワイシャツと肌着を脱ぐ。

 乱暴にパンツまで脱がされ素っ裸になると、左腕で大事なところを隠しながら右手で女の服を脱がせてみた。

 脱がしてみると、服を着てたときより胸が大きく見える。昔から見たくて仕方なかった女体の神秘まで、あとパンティー一枚だけ。

 小学生の頃、ここを見るために友達みんなでエロ本を探し回り、シンナーで消えるという噂を信じて黒い墨塗りを白くなるまでこすったんだ。

 下着だけになった女の姿にドギマギし、ブラジャーを取ろうとするが上手くいかない。抱きついて後ろに手を回すとホックが見つかり、そっと外してみた。

(本物のオッパイだ……)

 初めて生で見る本物のオッパイに興奮して本能的に乳首を口に含んだ。すると、スイッチが入ったように外人の鼻息が荒くなる。

 乳首から口を離すと女は突然立ち上がり、自分でパンティーを脱ぎ捨てて俺の腕を掴みベッドへ連れていく。

(あ、赤茶色の毛が……神秘のベールが……)

 いきなり網膜を直撃した神秘のベールに衝撃を受けていると、外人はタックルするように鼻血を垂らしている俺をベッドに押し倒す。

 体制を入れ替え上にされると、女は俺の頭を掴んで顔を女体の神秘に押し付け、腰を動かしはじめた。

「カマ~ン、ボーイ!」

(シャワーは!? チューはなし!? 俺、レイプされてるの!?)

 なぜかヌルヌルして熱を帯びている女体中央。チーズに似た強烈な臭いを嗅ぎながら我慢していると、急に女の動きが止まり仰向けにされた。

 女は俺の分身を握り、右手を上下に動かしはじめる。

「あっ!」

 乱暴なスペクタクルに極限まで興奮していたのか、俺の意識とは関係なく分身から熱いものがほとばしり、あっという間に血が引いて力を失っていく。

 突然のゲーム終了に、俺の脚の間にいる女は驚きの表情を浮かべている。

「ファック!」

「ブッ!」

 左頬に衝撃を受けると同時に目から火花が飛び散った。

 驚いて手で頬を押さえながら見ると、女は分身が発射した熱いものを顔から垂らし、両目を吊り上げ怒りの形相で俺を睨んでいる。

 枕元に置いてあったティッシュで顔にかかったものを拭うと、女は不貞腐ふてくされた態度で俺に背を向けて横になってしまった。

 天井を見ていると、情けなくて涙がこぼれそうになってくる。

 いったい俺がなにをしたっていうんだ? ラブホテルに連れ込んだのは結果的に俺だったけど、おもちゃみたいに乱暴に扱われてビンタまでされるいわれはない。

 性欲処理道具のように扱われてムカついていたが、不貞寝ふてねしている女の首筋から腰のラインを見ていると、だんだんムカムカがムラムラに変化してくる。

 急速に復活した我が分身を尻にくっつけてみると、女はこちらを向いて股間の硬さを確かめるように握り、急に笑顔になった。

「オ~ゥ、グッボーイ」

 再び仰向けにされて女が上になると、分身を握り腰を落としてくる。

(迫りくる大自然の神秘、激突し混じり合う二つの宇宙、そしてブラックホールで爆発する俺の火山!)

 訳の分からないことをブツブツ言いながら、その瞬間を脳裏に焼き付けようとクワッと目を見開く。

 ロケットと宇宙ステーションが合体するように分身が熱いところへ吸い込まれると、女は激しく動きはじめた。

(オデデ! イデ! イテッ!)

 俺の上で女が腰を動かす度、分身が爪先の方向に引きちぎられそうになる。

 あまりの痛さに再び目を見開いて女を見るが、女は陶酔したような表情のまま動きを止めない。

 目に涙を浮かべながらシーツを握り我慢していると、女が体を硬直させて動きを止め、俺の上に覆い被さってきた。

(お~いてえ! セ、セックスっていてえっ!)

 ゼェゼェいいながら痛みを我慢していたが、女はグッタリしたままだし我が分身は猛り狂ったままだ。

 仕方ないので抱きかかえたまま態勢を入れ替え、上になって動きはじめると女も元気になってきて腰を振りはじめる。

 そのままフィニッシュし、二人で冷えたコーヒーを飲んでホテルを出たが、別れてすぐ自己嫌悪に陥った。



創作長編小説

Posted by Inazuma Ramone