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第4回ツギクル小説大賞で、当サイトの作品「夢幻の旅」が奨励賞を受賞しました。
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ロックンロール・ライダー:第二十五話

創作長編小説

 新人歓迎会の夜から昨日まで、なぜか知らない女とセックスばかりしてる気がする。

 わずか二ヶ月前まではオナニーのための妄想でしかなかったことが、現実の出来事となり体験しているのだ。

 東京という大都会に住んでるためか、それとも麻雀マンガにも劣らない強運が続いているためなのか、この調子ならどこかのパンクバンドに加入できる日も近いかもしれない。

 欲望の赴くおもむくままセックスして疲れたためか、日曜日は溜め込んだ衣類を洗濯して室内を掃除しただけで昼寝をしてしまい、夜になって晩飯を食べに蕎麦屋へ行ったものの、あの娘の顔を見られずガッカリして一日が終わってしまった。

 月曜の朝、布団から体を起こすものの、まだ体がだるい。

 一昨日はライブで飛び跳ねたりベッドで暴れたりで、本当に体力を使った。今日は新しいプログラムの詳細設計書を受け取る日、疲れた体をいやすため、のんびりコーディングを行おう。

 買い置きしてあったパンを食べて支度をし、アパートを出て駅へと向かった。

 毎日のことだが、満員電車に詰め込まれて駅に着く度に吐き出され、ギュウギュウ詰めで揺られながら大門に到着。

 タイムカードを打刻し、駒田主任や薮田さんに挨拶して席に着くと、原口係長がニヤけた顔で安田さんや馬場さんとお喋りしながら出社してきた。

「おはようございます」

「おぉ安養寺君、おはよう」

「おはよー」

「おはようございまーす」

 出社してきた人たちが席に着くと、すぐに原口係長から声がかかった。

「安養寺君、新しいプログラムについて説明するよ」

 立ち上がって原口係長の元へ行くと、詳細設計書を見ながらの説明が始まる。

「今度組んでもらうのは、四千ステップのオンラインプログラムだ。単純なプログラムだけど、分岐が多いから少し厄介やっかいかな」

 説明を聞きながら、このプログラムは時間がかかると思った。オンラインプログラムなんて初めてだし、テストのやり方も分からないからだ。

 不安が顔に出ていたのか、俺の心を見透かしたかのような原口係長の声が聞こえてきた。

「初めてのオンラインプログラムだし、今回はテストのやり方も違うから、分からないことは僕か洋子ちゃんに聞いてくれ」

「分かりました」

「納期は六月三十日。新人には厳しいだろうけど、頑張って終わらそう」

 原口主任から詳細設計書を受け取り、自分の机に戻って最初のページから見ていく。

 説明どおり分岐が多そうなプログラム、やはり手間がかかりそうである。

 最後まで見終わってコーディングを始めると、向かいの席から薮田さんの声が聞こえてきた。

「安養寺君、僕もオンラインプログラムを組んでるんで、分からないことは聞いてください」

「ありがとうございます。なにかあったら聞きますよ」

 念のため、詳細設計書を見ながらフローチャートを書いてみるが、途中で訳が分からなくなりそうになる。

 とりあえず今日は、プログラムを理解するためにフローチャートを書き、入出力データをピクチャー句を書き出してみよう。

 あっという間に午前中が終わり、薮田さんたちと昼飯を食ってプログラムを書きはじめるが、信じられないくらい時間が早く進み、残業してピクチャー句を完成させる。

 翌日もプロシージャーディヴィジョンを作りはじめたところで終了。その日はスターグラフの「焦げついた疾走者」発売日のため、早々に仕事を切り上げて秋葉原へ行くことにした。

 閉店間際の某電気店に入ると、火曜日だというのに人があふれている。

 エスカレーターに乗って上の階へ行くと、新譜コーナーにスターグラフが一枚だけ残ってた!

 レジで会計を済ませ、コンビニで弁当とビールを買い家に帰って早速聴いてみる。

 ラジカセにセットして音が出た瞬間、これは間違いなくスターグラフのパンクロックだと感じた。

 バンドのメンバーチェンジがあり変わってしまうのではないかと心配したが、完全に前作の延長線上にある作品である。

 少しだけラジカセのボリュームを上げ、晩飯を食べるのを忘れて聴いていく。

 曲が進むごとにボリュームが上がっていき、最後の曲を聴き終える頃には結構な音量になっているのに気づいた。

 再生が終わり、大きく息をついてラジカセを片付けながら、今週の土曜日に新宿ロストで行われるライブについて考えはじめる。新曲はどれくらいるんだろうか、あの曲やこの曲は演ってくれるんだろうかと。

 弁当を食べながら、ニューアルバムが予想以上の出来だったことをバンドの中心人物であるヒナタに感謝した。明日、板野先輩に会ったらどの曲が良かったか聞いてみよう。

 シャワーを浴びてもう一度小さな音量でニューアルバムを聴き、休憩室で会うであろう先輩の興奮した顔を想像しながら眠りについた。

 翌日、出社して仕事を始め、疲れてきたところでコーヒーを飲もうと休憩室へ行くと、ドアのガラス越しに紙コップを手にした板野先輩の姿が見える。

「先輩、スターグラフのニューアルバム買いましたか?」

 休憩室に入って声をかけると、なぜか板野先輩はムカついた顔で振り返った。

「お前、一緒に買いに行くって言ったっぺ!」

 そうだった……新人歓迎会のとき、二人で買いに行こうって話してたんだ。ニューアルバムを買うことで頭がいっぱいになり、先輩のことを忘れてた。

「お前を探してたら薮田が帰ったって言うから、一人で買いに行ったんだぞ!」

 仏頂面ぶっちょうづらの先輩に謝り、怒りが収まってきたところでコーヒーをれながら話しだした。

「ところで先輩、ニューアルバム、どの曲が良かったですか?」

「印象に残ったのは二曲目と五曲目だな。お前は?」

「俺は一曲目、二曲目、四曲目かな。それと七曲目と十曲目、ラストの曲も良かったですね」

「あぁ、ラストの曲は良かったな。土曜日のライブ、新曲はどれを演るかな」

「ニューアルバム、予想以上に良かったんで、初期の曲と半々くらいの割合だといいですね」

「ライブまであと三日だ。それまでに、お互い仕事にケリをつけちまおうぜ」

 お互い中指を立てて挨拶し、休憩室を後にして仕事に戻った。

 土曜日に休日出勤なんてならないよう、早めに仕事を進めておかなければならない。金曜日までは無理してでもコンパイルできるくらいにしておこう。

 自分の席に戻り、頭の中でニューアルバムの曲を再生しながらコーディングの続きを行う。

 集中して仕事に取組み、終電近くまでプログラムを組む日々を過ごしながら、とうとう待ちに待った土曜日がやってきた。

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Posted by Inazuma Ramone