第一話 Knife Edge 其の6
「考えていても始まらんじゃろう。ポコリーノは稼ぎの口があるとしてヘンタイロス、貴公は金を稼ぐ当てがあるかの?」
ポコリーノが納得し頷いていると、再びザーメインが口を開いた。その言葉を聞き、下を向いて啜り泣いていたヘンタイロスが顔を上げるが答えられない。当たり前だろう。ヘンタイロスは賭場通いばかりして遊び呆け、今まで金を稼いだ事がないのだ。
言葉に詰まるヘンタイロスの心を見透かしているかのように、ザーメインから提案が飛び出した。
「貴公は料理が得意じゃったな? 料理人として金を稼いだらどうじゃ?」
ザーメインの提案にヘンタイロスの顔がパッと明るくなった。
「それよん! ザーメイン、ワタシ、前から本格的な料理を覚えたかったのよん! 料理人なら金も稼げるし一石二鳥だわん!」
「では早速貴公が働く店を探しに行こうではないか。最近ポロスに評判の店が出来たらしいのじゃ。料理人を募集してるといいがのぅ」
我が意を得たりといったヘンタイロスの喜び様を見たザーメインは椅子から立ち上がって杖を持ち、ポコリーノとヘンタイロスと共に家を出た。
大通りを東に進み乾物屋の横の路地を入ると、目の前にレストランの看板が見えると共に美味そうな匂いが漂ってくる。その匂いが、店の料理人が只者ではない事を語っている。
店の前まで来ると、中から慌しく人が動いている様子や大声で指示する声が分かる。
「ザーメイン、評判の店ってココなのん?」
「そうじゃ。『レストラン・ピエールの店』ここに間違いあるまい。じゃが仕込み中の様じゃの」
僅かに開いた扉の隙間から中を窺うと、凄まじい光景が三人の眼球に飛び込んで来た!
「たわけもーんッ!」
「押忍ッ!」
「たわけもーんッ!」
「押忍ッ!」
一列に並び仕込みをしている男たちの背中を、親方らしき男が竹刀でビシビシと殴りながら行ったり来たりしているではないか!
やがて一列に並んで働いていた男たちが動きを止め、野菜を片付けると、今度は壁際に一列に並び、男たちが見ている前で親方らしき男が自分で調理し始めた。ドレッシングを使い魚の仕込みをしているようだが、鮮やかな手際である。匂いで感じたように相当な腕前なのだろう。
三人が見惚れていると一切れの具材が床に落ちた。すると一列に並んで見ていた男たちの一人が、そっと具材を拾い口に入れた。
「あッ!」
親方らしき男はその行為を見逃さず、立て掛けてあった竹刀を取り具材を拾った男を殴り始めた!
「こっ、この野郎! 人の仕事を盗みやがってッ! この泥棒! 泥棒猫めぇ~ッ!」
親方は怒鳴りながら竹刀で何度も男を叩き、男が倒れると今度は足蹴にし始めた。
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むかしの体育会系のようなレストラン。ヘンタイロスのつぎの行動が目に浮かびました。