第一話 Violent World 其の1
ワグカッチの街はイドラ島の南の外れ、キワイ山を源流とするザブルド川河口の両岸に位置する。
イドラ島屈指の歓楽街として栄えるこの街は、川を挟んで西ワグカッチ、東ワグカッチに別れており、博徒や香具師等、様々な稼業の者たちが一家を構え、大いに賑わっていた。
欲望が渦巻く歓楽街では、自然、揉め事が多くなるが、殆んどの揉め事は街の顔役が間に入り収めている。
顔役は街の有力者であり、各ギルドと交流のある者が多い。一家を構える稼業人も己が加盟するギルドの手前、顔役の仲裁には従う。
だが最近は、顔役の言う事を聞かないどころか、稼業人相手に喧嘩を売ったり、強請りを働いたりする若者たちが出てきた。
派手に飾り付けた馬に乗って集団で街を走り回り、人々を無差別に袋叩きにする若者達は『暴行族』と呼ばれていた。
暴行族は常に集団で行動し、人数も多く荒くれ者ばかりのため、稼業人たちも手を出せないでいた。
街の人々からの苦情や相談が暴行族の事ばかりになり、困り果てた顔役は博徒一家を構える老博徒、マラッコに相談した。
大博徒、シーマ・イザブラーが『兄貴』と呼ぶマラッコは、博徒のみならず、他の稼業の者たちからも一目置かれる存在だった。
ワグカッチの稼業人が全員集まっても暴行族は手に負えない、と見たマラッコは、自分の賭場で遊んでいる渡世人がイザブラーの身内である事を思い出し、助っ人を頼む事を思いついた。
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