創作長編小説

夢幻の旅

創作長編小説

 しばらくの間、椅子に座ったまま天井を見ていたが、やはりというか、当然のことだが思考が停止してしまい何も考えることができない。

 頭の中にあるのは『死』の文字だけ。

 人は誰でも死ぬと分かっていながら、いざ自分 ...

創作長編小説

夢幻の旅

創作長編小説

 駐車場から病院の前を通る道に出ると、東に向かって通勤ラッシュが終わった道路を走る。時間は朝十時過ぎ、交通量は少なく車は快調に走っていく。

 やっと退屈な入院生活から解放されたためか、俺は自然と助手席に座る良美に話しかけて ...

創作長編小説

夢幻の旅

創作長編小説

 ケースを開きスマホの画面を見ると、電池が残り三十パーセントを切っている。

 この先何日かの入院生活を考えて少々焦り、充電用のケーブルを持ってきてくれたか聞いてみた。

「良美、スマホのケーブル持ってきてくれた? ...

創作長編小説

夢幻の旅

創作長編小説

 ――遠くから聞こえてくるサイレン。頭上に感じる人の気配。体に感じるのは冷たく硬い材質。

 なぜか俺は寝ているようだが、動こうとしても体が言うことを聞かず、頭と右肩が痛い。

 瞼まぶたを突き破って届く光を認識し ...

創作長編小説

Autographic

創作長編小説

 朝、目を覚ますと鮭を焼く良い匂いが漂ってくる。眠い目を擦りながら布団から抜け出し、匂いを辿りながら居間へ行くと、おじさんが囲炉裏で味噌汁を作っていた。

「おう秀人、起きてきたか」

「おはよう、おじさん」