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第4回ツギクル小説大賞で、当サイトの作品、夢幻の旅が奨励賞を受賞しました。
管理人:Inazuma Ramone

夢幻の旅:第十五話

創作長編小説

 昨日の、希望が少しだけ混じった想像が不可思議な現象と共に絶望に変わり、奈落の底に叩き落されたまま床に就いたが、良美と蛍のことを考えているうちに寝てしまったようだ。

 朝の光と小鳥のさえずりで目を覚まし、リビングへ行ってみるものの良美は起きてない。あたりまえだ、夕べ大声で俺を罵り、涙を流しながら自室に籠ってしまったのだから。

 誰もいないリビングで深い溜息をつき、下を向いたまま出かける支度をして車に乗り込み、晴れた空の下、病院へ向け出発した。

 家の東にある病院へ向かうため車を運転する俺の目に、朝日が容赦なく襲いかかる。

 舌打ちしながらバイザーを下して運転するが、車の方向が少し変わっただけで右から左から凶暴な日差しが車内に飛び込み、病院へ着くまでの間、気分が落ち込んでいる俺をイライラさせた。

 病院の受付で手続きを済ますと少し待っただけで名前を呼ばれ、カードを渡されて三階にある診察室へ行くよう指示される。最近は少し歩いただけで体が怠くなってしまうが、エレベーターが老人でいっぱいだったため階段を昇り三階へ行く。

 指定された部屋の間へに立ち、ドアを二回ノックすると看護師が現れて中に入るよう言われ、医師が座っている前に置かれた椅子の前まで歩いていった。机の上の書類を見ていた四十代半ばと思われる眼鏡の女医が振り向き、微笑みながら椅子に腰かけるよう勧める。

 俺が手に持っていたカードを看護師に渡して椅子に座ると、女医は机の上のカルテを見ながら説明しはじめた。

「こんにちは、世良田さん。カルテを拝見しましたが、血液検査の数値に異常値が出ています。今日はこれから、MRI検査と血液採取を行うので、はじめに採血させてください」

「わかりました」

 横にいた看護師に袖を捲るよう言われ、腕を出すとゴムチューブで肘の上を縛られ、浮き出た血管に細い針を突き立てられる。

 ドス黒く見える赤い血が勢いよく採血器具の中に流れ込んでいき、あっという間にいっぱいになっていく。看護師は器具を変えて二本目、三本目と手際よく採血を行い、五分足らずで終了してしまった。

「では世良田さん、一階のMRI診察室へ行ってください」

 女医の言葉にうなずき、看護師からカードを受け取ると診察室を出て一階へと続く階段へ向かった。階段を降りながら、帰ったら良美になんて言おうか考えることしかできない。毎日家事をこなし、食事を作る良美の姿を思い浮かべながら、今さらながら彼女の存在の大きさに気づかされた自分がいる。

 一階に到着し、暗く長い廊下を歩いていくとMRI室が左に見える。ドアの横にある受付のガラス扉をノックし、顔を出した看護師にカードを渡すと、MRI室のドアが開いて招き入れられた。

「これからMRIを検査をおこなうので着替えてください」

 シャツとズボンを脱いでカゴに入れ、診察着に着替えてから看護師に言われるまま台の上に横になる。

 じっとしていると「動かないでください」という声が聞こえ、俺の体が頭上にある丸い穴が空いた機械の中に移動していく。

 一番奥まで行き、再び戻ると検査終了。看護師から「着替えて受付の前で待っててください」と言われ、検査着を脱いでズボンとシャツを着ると、カードを受け取った俺は診察室を出て受付へと向かった。

 受付前のベンチでテレビを見ながら待っていると、名前を呼ばれたのでカウンターへ行く。

「お疲れさまでした。検査結果は一か月ほどで当院に届きます。届き次第ご連絡いたしますので、その時に検査結果の説明を受ける日にちを決めましょう」

 保険証を受け取り、病院を出て駐車場に止めてある車に乗り込むものの、家に帰るのが憂鬱である。家を出るときから良美の顔が頭を占領しているし、なんて声をかけていいかも分からない。

 どこをどう走ったのか記憶がないまま家に到着し、玄関の鍵を開けリビングへ向かったが、家の中に人気を感じない。

(まだ部屋に籠ってるのかな……)

 そう思いながら、夕べから何も食べてない空っぽの腹を満たそうとダイニングへ向かうと、テーブルの上にメモが置いてある。

(なんだ、これ……)

 メモを取ろうとした俺の右手が途中で止まった。

「しばらくの間、実家に戻ります」

 メモには、体を凍りつかせる言葉が書かれていたのだ。

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