夢幻の旅:第六話

創作長編小説

 付録を付けるのはスタッフに任せるとして、カートに置いた雑誌を出してしまおう。今日の商品入荷量では、雑誌に付録を付けてからだと開店時間を過ぎても雑誌が出ない。女性誌は付録付き商品が多く、今日の入荷品の半分近くが付録付きの女性誌だ。

 付録が付く雑誌を乗せた台車をレジへ持っていき、俺は残りの雑誌を出してしまうことにした。

 女性誌は入り口正面が陳列場所になるため、まず陳列場所に置いてある先月号を撤去し、今日入荷してきた雑誌を平積みにしていく。

 雑誌でも冊数が多くなると重い。歳のためか、まとめて雑誌を持つと腰が痛くなってくる。無理して多く持たないよう気をつけ、お客様から見やすく手に取りやすいように平台の奥を高く、手前が低くなるよう陳列を調整し、売れて残数が少なくなった雑誌は棚へ移動して、付録付きの雑誌を出すための場所を再び空けておく。

 雑誌を出し終える頃、スタッフが出勤してきた。

「おはようございます」

「おはよう」

 スタッフと挨拶を交わし、全員が出勤してきたところで開店前の朝礼を始めるとするか。レジの前に立ち、今日出勤してきたスタッフ全員が俺の前に並んだところで朝礼を始めた。

「朝礼を始めます。おはようございます!」

「おはようございま~す!」

「今日は女性誌の発売が多い日です。先月の定期購読キャンペーンで定期購読者数が増えてるので、雑誌の抜き漏れがないよう数を確認しながら作業してください。それと、今月は売上金の誤差が多いです。全員、過不足金がでないよう預かり金、釣り銭ともに確認しながら受け渡ししてください。先週から英検の受付も始まってるので、受験する等級と料金を間違えないこと」

 注意してもらいたい点を伝え、他に連絡があるか確認すると文具担当が手を挙げた。

「名入れ鉛筆で一件トラブルになってます。名前が違うという信じられないミスなので、全員注文を受ける時はお客様に確認するようにしてください」

 あのクレームか……。

 あれは脱力するようなクレームだった。鉛筆に名前を入れるサービスは、お客様が注文用紙に自分で記入し注文を受けるのだが、お客様が平仮名で書いた子供の名前が間違えてたのが商品をお渡しするときに発覚したのだ。

「確認しなかった店が悪い!」

 レジ前で怒鳴り散らすお客様に自分で書いた注文書を見せ、記入されたとおりに作ったことを説明したのだが埒があかず、メーカーに電話して作り直しを交渉をしたものの「注文どおりに作ったんだから」と断られた。

 結局、作り直しを要求しに来た注文主の亭主に説明したところ、子供の名前を間違えた奥さんに呆れてその場で新たに注文してもらうことになり、間違えた商品共々買っていただく事で話がまとまったのだ。

「全員、どんな注文を受けるときも、お客様が記入した部分は復唱して相互確認すること。同じミスは繰り返さないようにしましょう。では今日も一日、よろしくお願いします」

 スタッフに注文を受ける際の注意を喚起して朝礼を終えると、照明を点け店舗の開店作業をはじめる。

 自動ドアが開き、お客様が入ってくるのを見ながらスタッフの一人にレジ内での雑誌付録付け、文具担当には商品の品出し、コミック担当には新刊コミックのシュリンクパックを指示し、俺はスタッフが付録を付けてる間に新刊書籍を出してしまうことにした。

 書籍をカートに乗せながら客注品を抜き、文芸書、ビジネス書、文庫、実用書などを分けていると、天井の照明や壁から「ピキン! パキン!」という音がする。不思議に思い周りを見ていると、背後に人の気配を感じ振り返った。

「おはようございます!」

「蛍ちゃん……」

 俺の後ろに立ち、元気な声で挨拶したのは、心の中で会えるのを待ち望んでいた蛍だった。

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